【厳選10パターン】相続税を軽減する節税対策の完全マニュアル
By Oh!Ya編集部
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両親が高齢になったとき、自身や配偶者が高齢になったときなど、人生において複数回は相続税について考える機会があります。そして、皆さまもご存知の通り、相続税は対策しなければ大きな税負担が課せられてしまいます。
そこで今回は、相続税を軽減するために活用できる、厳選した10パターンの節税対策を解説していきます。
生前贈与を活用した相続税対策4選
生前贈与は、文字通り「生前に子ども・孫に財産を贈与する」といった行為を指します。
この項では、生前贈与をもちいた相続税対策について解説していきます。
基礎控除を利用して毎年110万円を贈与
生前贈与による相続税対策のなかで、特に利用しやすいものが「暦年贈与」です。
生前贈与に課せられる贈与税は、基礎控除として年間110万円が設定されています。そのため、1月1日から12月31日の1年間に受け取る財産は、110万円以下に抑えていれば税金が課せられないのです。
これにより、生前に資産を移動させることが可能で、将来的に相続の対象となる財産を減らせます。なお、基礎控除は年間110万円と枠が決まっていることから、非課税の贈与総額を増やすなら早期に取り組み始めるほど有利です。
生前贈与の証明がなければ否認される可能性に注意
生前贈与を行う際、贈与が手渡しにより行われていた場合は、生前贈与の事実を証明できず否認される恐れがあります。銀行口座に振り込むなど、贈与の日時・金額の記録が分かる形で証拠を残しておきましょう。
また、贈与の契約は、贈与者と受贈者(贈与を受けた人)の合意のもと口約束でも成り立ちますが、贈与契約書を作成することで贈与の事実を証明しやすくなります。贈与契約書に決まった書式はないものの、以下のようなポイントを押さえて作成することを推奨します。
- 贈与者・受贈者の氏名
- 贈与の内容
- 贈与の方法
- 贈与の日時
また、子どもや孫名義の預金口座を作成し、その口座に贈与した財産を入金して実質的に贈与者が管理している場合、贈与が成立せず否認されることがあることにも注意してください。
教育資金贈与により1,500万円の非課税枠を利用
30歳未満の受贈者が、教育資金に充てるための財産を贈与者から受け取る場合、教育資金非課税申告書を提出することで最大1,500万円までの金額が非課税となります。
国税庁が公表する「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」によれば、教育資金として認められる金銭は以下のようなものです。
学校等に対して直接支払われる金銭 |
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入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など |
学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用など |
出所:国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」を抜粋・改編
これらの、学校等に直接支払われるお金は、1,500万円までの贈与が非課税となり、1,500万円を超えた金額から課税対象となります。
一方、教養を身に付けるための支出も教育資金として認められており、以下のような用途に使われる場合は500万円までの贈与が非課税です。
学校等以外の物に支払われる金銭 |
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教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など |
スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など |
通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費 |
出所:国税庁「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」を抜粋・改編
なお、受贈者が30歳を迎えた時点で使い切れなかった残額は、贈与者か受贈者のいずれかから受け取り人を決定し、残額を受贈者が受け取る場合には贈与税が課せられる点に注意してください。
教育資金贈与は短期的な節税対策として有効
本来、教育資金の贈与には贈与税が発生しないため、そもそも「子ども・孫に教育資金が必要になったとき」が訪れるたびに、教育資金として贈与すれば課税は発生しません。
贈与者の余命が明らかになっている場合など、短期的に多額の贈与を行う必要があるケースを除いて、教育資金贈与を利用するメリットは大きくないのです。
最大1,500万円と、まとまった金額を一括贈与できる制度ではあるものの、贈与者が健康体である場合に有効ではない点に留意してください。
おしどり贈与を利用することで配偶者に贈与
おしどり贈与は、つぎの要件を満たすことで利用できる、贈与税免除の特例です。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上であること(事実婚は無効)
- 贈与される財産は居住用不動産、もしくはそれを取得する金銭
- 贈与された翌年3月15日時点で、贈与対象の不動産に住んでいること
おしどり贈与によって非課税となる贈与枠は、基礎控除とは別に2,000万円です。そのため、おしどり贈与を利用した年度は、基礎控除とあわせて最大2,110万円の贈与が非課税となります。
なお、おしどり贈与を同じ配偶者から二度受けることはできません。同一の夫婦間では一生に一度しか利用できないことに注意してください。
ベストな節税対策とならない場合があるため要注意
おしどり贈与は、最大2,000万円の控除を受けられることから、大きなメリットがあるように思えるものの、実際に節税効果を発揮するシーンは限られています。
そもそも、相続により配偶者へ居住用不動産を相続した場合、1億6,000万円までの財産は課税対象になりません。さらに、相続で不動産を受け取った場合より、不動産を贈与された場合の方が不動産取得税や登録免許税が割高になってしまいます。
そのため、利用を検討する際には、税理士を始めとする専門家に相談のうえ、各自の資産状況・相続の意向をもとに慎重に進めることをおすすめします。
相続時精算課税制度により賃貸用不動産を非課税で贈与
相続時精算課税制度は、「60歳以上の父母・祖父母」が「20歳以上の子ども・孫」に対して生前贈与を行う際、贈与にかかる贈与税を合計2,500万円まで免除できる制度。
ただし、非課税による節税効果は一時的なもので、贈与者の死亡時は「制度を利用して贈与した資産」に相続税が課せられます。そのため、実際には納税時期を遅らせるようなイメージを持っている制度です。
しかし、相続時精算課税制度を利用した場合、相続税額の計算にもちいる評価額は「贈与時点の評価額」がもちいられるため、贈与時から相続時にかけて値上がりする資産を贈与することで、間接的に相続税を抑えられるという利点があるのです。
なお、相続時精算課税制度を適用した場合、暦年贈与が利用できなくなるため、制度の利用は慎重に検討してください。
不動産を活用した相続税対策3選
「不動産を買うことで相続税対策になる」といった事実は広く知られているものの、実際にどのような仕組みで節税できるのか理解しているケースばかりではありません。
この項では、不動産をもちいた相続税対策について解説していきます。
賃貸用の不動産を購入して大幅に節税
財産を相続する際、事前に相続財産を賃貸用不動産に変えておくことで、現金をそのまま引き継ぐよりも税負担を軽減できます。
これは、相続する財産の計算時にもちいる土地・建物の評価額は、時価(現時点の売買価格)より安価に設定されているからです。相続時における現金の評価額を10割とすれば、自己利用する不動産の評価は8割程度、賃貸用不動産の場合は6~7割にまで低下します。
また、賃貸用不動産は相続税の軽減に役立つだけでなく、相続後に相続人(相続を受けた人)の収入源としての役割を果たします。
「小規模宅地等の特例」により評価額を最大80%低減
小規模宅地等の特例は、規定の要件を満たすことで「土地の相続税評価額」を最大8割減額できる制度です。土地の種類・用途によって、減額対象となる面積の上限と減額割合が変動します。
出所:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
ここでは、最も利用するケースが多い「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」を例にして、どの程度の経済的メリットがあるのかご説明します。
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の計算例
相続対象となる土地が、以下のような条件のものだと仮定して、評価額の減少率を求めていきます。
- 土地面積は500㎡
- 土地評価額は2,000万円
相続する土地の面積が500㎡、評価額が2,000万円である場合、500㎡のうち330㎡のみ8割減額の対象となります。
そのため、残りの170㎡は減額対象から外れることとなり、以下のような計算式によって減額分は1,056万円、減額後の評価額は944万円になることが分かります。
求める値 | 計算式 |
---|---|
減少する金額 | 1,056万円=2,000万円 × 0.66(330㎡ / 500㎡) × 0.8 |
最終的な評価額 | 944万円=2,000万円-1,056万円 |
こうして、相続税の課税対象となる評価額は、特例の利用前に比べて半分以下になるのです。
広大な土地は「地積規模の大きな宅地の評価」が利用可能
地積規模の大きな宅地の評価は、三大都市圏にある500㎡以上の土地、もしくは三大都市圏以外にある1,000㎡以上の土地を対象とし、一定の要件をクリアすることで利用できる特例。
地積規模の大きな宅地の評価の適用要件に当てはまった場合、相続税額を左右する評価額が10~20%以上も減額されるため、広大な土地を相続する際に利用候補となります。
以下のいずれかに該当する宅地は、地積規模の大きな宅地に分類されないため注意してください。
地積規模の大きな宅地の評価を適用できないケース |
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市街化調整区域に所在する宅地 |
都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地 |
指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅地 |
財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地 |
出所:国税庁「地積規模の大きな宅地の評価」を抜粋・改編
生命保険を活用した相続税対策
生命保険に加入しており、加入者に死亡保険金がかけられていた場合、受け取った保険金のうち「500万円 × 法定相続人数」で算出できる金額までは非課税となります。
つまり、法定相続人の人数が3人であれば、保険金の非課税枠は1,500万円になるのです。そのため、法定相続人の人数にあわせて、条件に合致するような生命保険に加入することで、無駄なく相続時の税負担を軽減できます。
その他の方法による相続税対策2選
生前贈与や不動産、生命保険をもちいた相続税以外にも、相続税対策はいくつか存在します。
この項では、ここまでご紹介したカテゴリー以外の方法をもちいた対策方法をご紹介します。
養子縁組を利用して相続人を増やす
養子縁組を利用して相続人を増やすことで、生命保険の非課税枠や相続税の基礎控除額を増額させられます。
法定相続人として認められる養子の人数は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合には2人までです。なお、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円 × 法定相続人」という公式で決まります。
生前に墓地・仏具を購入する
墓地や仏具は「非課税財産」と呼ばれており、相続税の対象にならない財産に分類されます。そのため、被相続人が生前に300万円の墓地を購入していれば、相続時に課税対象となる資産が300万円減り、税負担が軽減されるのです。
被相続人が、自身の死後に墓地・仏具の購入を希望している場合は、生前にあらかじめ揃えておくことで相続税の対策となります。
相続税に利用できる6つの控除
相続時は、相続人が特定の条件を満たす場合に受けられる控除が複数あります。利用できるケースが多い、6つの控除を順にご紹介します。
配偶者控除
配偶者控除は、被相続人の配偶者が相続財産を受け取る際、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分」のうち、いずれか大きい金額までは非課税となる控除です。
相続人 | 配偶者の法定相続分 |
---|---|
1.配偶者と被相続人の子ども(いない場合は孫) | 財産の2分の1 |
2.配偶者と被相続人の父母(いない場合は祖父母) | 財産の3分の2 |
3.配偶者と被相続人の兄弟(いない場合は甥・姪) | 財産の4分の3 |
4.配偶者のみ | 全ての相続財産 |
1から優先的に適用され、1~3のうち該当するものがない場合には、4が適用されることとなります。
たとえば、配偶者が6億円の財産を持っており、それを1のケースで相続するなら「配偶者の法定相続分」は3億円となり、3億円までの相続財産にかかる税金は控除されるという仕組みです。
障害者控除
障害者控除は、相続人が障がい者であった場合に適用される控除。
一般障がい者であれば「相続人が満85歳になるまでの年数 × 10万円」が控除額として認められ、特別障がい者であれば「相続人が満85歳になるまでの年数 × 20万円」が控除額として認められます。
未成年者控除
未成年者控除は、相続人が未成年の場合に適用される控除。「20歳になるまでの年数 × 10万円」が控除額として認められます。
贈与税額控除
贈与税額控除は、相続が発生する3年以内のあいだに支払った贈与税を、今回の相続税から差し引ける控除。二重で課税されることを回避するための制度です。
控除額は、相続が発生する3年以内のあいだに支払った贈与税の全額で、上限はありません。
相次相続控除
相次相続控除は、被相続人が「過去10年以内に相続税を支払っている」という条件下で適用される控除です。
求める値 | |
---|---|
相次相続控除額 | A × C ÷(B-A)× D ÷ C ×(10-E)÷ 10 |
A | 被相続人が前回の相続時に課せられた相続税額 |
B | 被相続人が前回の相続時に取得した財産額 |
C | 今回の相続財産の合計額 |
D | 今回の相続人が受け取る財産額 |
E | 前回から今回の相続までの期間(1年未満は切捨て) |
(B-A)よりCが大きい際、Cには(B-A)を挿入 |
出所:国税庁「相次相続控除」を抜粋・改編
一部例外を除き、上記の計算式によって求められた金額が、相次相続控除として認められます。
外国税額控除
外国税額控除は、相続財産が海外にある場合に二重課税を回避するための控除。以下のうち、いずれか少ない金額を控除額とします。
- 外国で納める「日本の相続税」に相当する税額
- 日本の相続税額 × 外国にある財産額 ÷ 相続財産の総額
まとめ
今回ご説明したように、相続税を軽減する節税対策は数多くあります。ただし、各方法を実際に相続税の軽減にもちいる場合は、税関連の知識を有した専門家に相談することを推奨します。
制度により難解な解釈があるケースも多く、文面を読む限りは適用対象であるように見えても、実際には適用できない場合があるためです。
そのため、本記事は「この方法を利用したい」と意思表示をできるよう、専門家に相談する以前の自主学習の一環として利用することをおすすめします。