退職金は勤続年数でいくら変わる?5年~20年までの違いを徹底シミュレーション
By Oh!Ya編集部
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日本では多くの企業が退職金の制度を導入しています。退職金を受け取ることができれば、退職した後の生計を立てる際にも大きなプラスになるでしょう。 これまでは終身雇用と言われるほど長期勤続が当たり前でした。しかし、近年では職種の多様化が進み、転職を希望する人が増えてきています。
退職金は定年退職をした人が貰える、というイメージが強かったのですが、退職金制度を利用できるのは定年を迎えた方だけではありません。若くして会社を退職した人でも同じように退職金を受け取ることができるのです。
ここでは、具体的に退職金がどれくらいになるのか勤続年数ごとにご紹介していきます。
目次
勤続年数で退職金の額は変わる?
退職金の計算式は主に5種類。どの計算式であっても、退職金の計算には「勤続年数」が密接に関わってきます。それだけ勤続年数は重要視されているのです。
退職金制度(または退職給付制度)を導入している企業によって使用している計算式が異なるので、詳しい計算については勤務されている企業の担当部署に確認してみてください。
主に退職金の計算で使われている計算式は以下の通りです。
- 最終給与連動方式
- 全期間平均給与方式
- 別テーブル方式
- 勤続年数別定額方式
- ポイント方式
1から3までが賃金(給与)と直接連動した計算式なのに対して、4と5は賃金と切り離して計算をします。 ここでは、わかりやすくするために1の最終給与連動方式を使ってシミュレーションしていきましょう。
退職金の基本的な計算式
最終給与連動方式の場合は、退職する時点の月例賃金(基本給)を基礎として退職金を計算します。
最終給与連動方式の計算式 |
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退職時の基本給×支給率×退職事由係数 |
退職をした直前の基本給に対して、予め企業が規定している「支給率」を乗じて計算します。そこからさらに退職する理由によって最終的な退職金の額が変動する、という仕組みです。
支給率(または給付率)は、退職金制度を導入する際に予め規定されており、勤続年数に応じて退職金を支給する割合が変動します。企業が退職金の計算を行うときは、退職する従業員の勤続年数を確認してから支給率一覧表を基に計算するようになっているのです。
たいていの支給率には退職事由係数も組み込まれているので、支給率一覧表を見ればすぐに支給割合がわかります。
退職金の計算には勤続年数の影響が大きい
このように、支給率は勤続年数が長いほど支給割合が高くなり、短い勤続年数であれば支給割合も低くなるのです。また、自己都合によって会社を退職する従業員に対しても支給率が下がるような設定になっています。
退職金の額が高くなるのは、「退職する時点で基本給が高い従業員」、「勤続年数が長い従業員」、「定年退職や会社都合によって退職する従業員」などです。 「退職する時点の基本給」の部分は、企業が使用する退職金の計算式によって違いが出てきますが、勤続年数や退職事由は全ての計算式に当てはめられています。
退職金はどれくらい?
では、具体的に勤続年数別で退職金をシミュレーションしてみましょう。勤続年数が5年・10年・20年の場合に分けてみました。 計算する例としては以下の通りです。
- 退職時の基本給40万円
- 自己都合による退職
なお、計算に入れる支給率はあくまでも仮のものです。実際の支給率は企業によって異なるので、ご自分が勤めている会社へ確認してみてくださいね。
勤続年数5年の場合
勤続年数が5年の方は、退職金が支給される割合が低くなります。
勤続年数5年のシミュレーション |
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退職時の基本給40万円×支給率1.2%=退職金48万円 |
この場合の退職金の額は48万円です。計算に入れた支給率には退職事由も含まれています。
勤続年数10年の場合
では、勤続年数が10年の方の場合はどうでしょうか?
勤続年数10年のシミュレーション |
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退職時の基本給40万円×支給率2.4%=退職金96万円 |
勤続年数が増えたことで、支給される割合も高くなりました。退職金の額は96万円という結果に。
勤続年数20年の場合
最後に、勤続年数20年の方を見てみましょう。
勤続年数20年のシミュレーション |
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退職時の基本給40万円×支給率12%=退職金480万円 |
支給率がぐっと高くなり、受け取れる退職金の額もいっきに増えました。退職金は480万円です。
このように、勤続年数が長くなるにつれて、支給率がどんどん高くなる設定になっています。企業としても、せっかく確保した人材には「自社で長く活躍してほしい」という思いがあるので、長期勤続してくれた従業員には退職金が大きくなるようにしているのです。
退職金制度の仕組みを理解しておこう
退職金制度は、どういった構造で成り立っているのでしょうか? 退職金の制度自体は企業にとって義務ではありません。必ず退職金を出さなければならないような法律は定められていないのです。
もしあなたが勤めている企業が退職金を用意しているのであれば、その企業が任意で退職金制度を導入しているから。逆に考えると、退職金制度を導入していない企業も多く存在しているのです。
そのため、まずは勤務している企業がそもそも退職金の制度を導入しているのかを確認する必要があります。もし退職金を用意していないのであれば、いくら自分で退職金の計算をしたところで意味がありません。
とはいえ、日本では企業全体の75.5%が退職給付制度を導入しているため、大半の企業が退職金を用意しています。退職金を受け取るためには、様々な要件が設けられているので、まずは制度のルールをよく理解しておくことが大切です。
退職金のルール
退職金の制度は大きく2つの構造に分かれています。
- 労働条件と報酬に関する退職金制度
- 退職金の積み立てや支払い方法についての制度
1は退職した従業員に対して、どういう条件を満たせば退職金が貰えて、いくら退職金を支払うのかについてのルール。 2は従業員に支払うための退職金をどうやって積み立てていくか、またどんな方法で支払うかについて決められたルールです。
労働条件や報酬について定めているのが退職金規定。退職金の積み立て方法など、制度の運営について定めたものが運営規定です。
退職金の規定とは?
前述の通り、退職金制度の導入は任意ですが、もし企業が制度の導入を決めた場合は労働基準法に基づいて退職金のルールを決めなければなりません。 ルールの内容としては以下の通りです。
- 退職金の給付がなされる適用範囲
- 退職金の設定
- 計算方法や支払いの方法
- 支払い時期
こうした規定は、きちんと文書にして約束することになります。
退職金を貰うには条件がある
企業が退職金制度を導入して退職金の設定や運営規定を設けていても、従業員がその条件を満たしていなければ退職金を受け取ることができません。 これは退職金制度の前提条件とも言えるものなので、従業員がこのルールに則ってこそ初めて退職金が貰えるようになるのです。
対象者の範囲と支給の制限
企業が規定しているルールとしては、まず「誰に対してどのように退職金を支払うか」、「もしくは誰に支払わないか」です。
初めの段階から、一定の要件を満たした従業員に対してのみ退職金を積み立てていく、というルールを決めています。そのため、入社したときにこのルールから外れている従業員は勤続年数がいくら長くても退職金を受け取ることはできません。
企業が定めたルールから外れている従業員というのは、たとえば契約社員やパートタイマー・アルバイトなどです。こうした雇用形態は、もともと短期・中期の雇用が目的である場合が多いため、退職金制度の規定から外されています。
もちろん、企業によって退職金制度のルールは異なるので、この限りではありません。正社員以外の雇用形態の方にも退職金が出せるように規定している場合もあります。 たとえば「感謝金」「功労金」「餞別(せんべつ)金」のような形で制度を設けていることもあるのです。
もし、契約社員やパートタイマー・アルバイトの方であっても、企業がこうした制度を規定していれば、名称は違っても退職金のような形で受け取ることができます。一度、企業の担当の方に確認してみると良いでしょう。
退職金はどうやって支払われる?
退職金を受け取る方法は4種類。企業によって支払い方法が異なり、従業員が選べる場合もあります。
退職一時金
退職一時金は、従業員が退職するときに退職金をまとめて貰えるというもの。最もシンプルな支払い方法です。 受取日に関してとくに企業が定めていない場合は、退職した本人から請求があった日から7日以内に支払うよう求めることができます。これは労働基準法23条に規定されており、この場合、企業は必ず守らなければなりません。
ただし、一般的には退職金の給付日を企業が予め決めており、退職日の翌月末か翌々月末に支払われる場合が多いです。
確定給付型年金(退職年金)
こちらは退職時に一括で支払うわけではなく、企業が一定の期間を定めて、分割で退職金が支払われます。 定められた期間中はずっと退職金が振り込まれるので、従業員にとっては退職後の生計の支えになるというメリットがあるのです。
この確定給付型年金の制度は社外に資産を積み立てていく必要があるため、中小企業などでは導入していない場合があります。確定給付型年金による受け取りを希望される方は、そもそも企業がこの制度を導入しているか確認してみましょう。
退職金には所得控除がある
給与や賞与などを貰ったら、それは所得として税金が課せられます。年間所得に対して所得税率5%から45%が掛かるのです。所得税は累進課税のため、所得が多い人ほど税金が多く課せられる仕組みになっています。
ところが、退職金の場合は給与などの賃金とは異なる扱いがされており、社会保障的な位置づけです。失業した方の生活を支えるための意味合いが強いため、受け取った退職金に対して掛かる税金負担も大きく軽減されることになります。 これが退職所得控除です。
退職所得控除の計算式 |
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退職所得の金額=(退職金-退職所得控除額)×1/2 |
退職金が給付されたら、そこから退職所得控除額が差し引かれます。さらに残った金額が半額になるので、かなり所得税の負担が軽減されます。
退職所得控除額の計算方法については、国税庁の公式サイトで公開されているので、ぜひご覧になってみてください。 参照⇒国税庁(退職金を受け取ったとき)
退職所得控除の対象とは
退職所得控除の優遇措置を受けることができるのは、退職した従業員が退職金として所得を得た場合のみです。 ただし、12月末に退職をして退職金を受け取った後に、また同じ企業に1月1日に入社した場合はこの限りではありません。悪質な所得税逃れとしてみなされてしまうので注意しましょう。
中小企業退職金共済とは
中小企業退職金共済(略して中退共)は、退職金制度の整備や運用が進まない企業に代わって外部機関として退職金制度を運用する組織です。
中小企業退職金共済に加入できるのは、雇用している従業員数が300人以下など中小企業に限られています。 加入している企業が、中小企業退職金共済へ退職金の掛金を積み立てていき、従業員が退職した際には「本人が機関から直接退職金を受け取ることができる」という仕組みです。
退職金制度として使う
企業は予め従業員の役職や年齢などに応じて、個人ごとに掛金を決めます。あとは月々の掛金を中小企業退職金共済に積み立てていくだけ。 従業員が退職したときはこの積立金の合計を受け取ることができるので、退職金制度の一つとして利用されています。
まとめ
退職金の計算には支給率が使われます。支給率は勤続年数や退職事由によって変動するため、長く勤めている人ほど退職金が貰える額も大きくなっていく仕組みです。 このように、退職金の支給割合には勤続年数の関りが深く、企業がそれだけ重要視している点でもあります。
退職金制度の導入は任意なので、長く勤めていても退職金が出ない場合もあるかもしれません。まずは企業の担当部署に確認や相談をしてみてください。
また、退職金の計算式や支払い方法は企業によってかなり違います。退職金は退職時に一括で貰えるのか、または分割で貰えるのか、についても確認が必要です。 全国の過半数の企業が退職金を用意しているので、退職金の適用条件を満たしていれば退職金を受けることができます。
そもそも自分は退職金を貰える条件を満たしているのか、勤務先の会社に訊いてみることから始めましょう。