不動産投資信託のリスクとは?損失回避のための5つのポイント
By Oh!Ya編集部
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東京オリンピックやインバウンド政策で注目を集める不動産投資信託。
低リスクで高利回りだというメリットばかり強調されますが、決して「当てずっぽうな投資」で利益を得られるわけではありません。当然ながら、堅実に運用するためには各リスクへの理解が不可欠です。
そこで今回は、不動産投資信託のリスクを再確認し、徹底して損失を回避する方法をご紹介します。
不動産投資信託(REIT)とは?
不動産投資信託は、REITとも呼ばれる不動産市場を対象とした金融商品です。
まず、投資家が証券取引所から銘柄を購入することで、投資法人に投資資金が集まります。そして、投資法人は資産運用会社に実際の不動産運用を委託。不動産の家賃収入や売却益のうち9割は、「分配金」として投資家に還元されます。
人口減少への懸念で不動産市場の低迷が予想される一方、東京オリンピックによる訪日外国人の増加が見込まれる昨今。オフィスビルや商業施設のニーズ上昇が予想され、不動産市場の注目と同時に不動産投資信託にも期待が集まっています。
どのようなリスクがあるの?
低リスクな運用を始めるためには、各リスクへの理解が欠かせません。
この項では、不動産投資信託が抱える代表的なリスクをご紹介します。
運用成績が低下するリスク
不動産の需要低迷や金利上昇による借入条件の悪化により、市場全体または一部の銘柄が不人気となる可能性があります。
金融資産としての評価が低下すれば保有銘柄の取引価格も減額し、これが購入時の価格より低くなれば損失を生んでしまいます。値下げリスクを回避するためには、一歩先の不動産市場を予想しつつ投資する意識が重要。
東京オリンピックが「不動産需要を底上げする」と判断するなら不動産投資信託へ投資し、人口減少が「不動産市場を低迷させる」と判断するなら投資は取り止める。上がるか下がるかのギャンブルではなく、このような客観的な視点がリスク回避のカギとなります。
運用している不動産の被災リスク
不動産を取り扱う金融商品であるため、「地震や水災にさらされる」という実物資産に特有のリスクがともないます。
運用する不動産は地域分散によるリスク管理が施されているものの、災害の多発する日本ですべての被災リスクを回避することは困難。優れた収益性をもつ不動産が損壊すれば、運用利益に大打撃をもたらします。
ただし、平成23年に発生した東日本大震災の被害状況から、各不動産投資信託で取り扱う不動産の「優れた耐震性」が証明されました。市場の下落は株式相場よりも限定的、かつ早期な回復を見せたことで、不動産運用でもっとも警戒すべき「地震災害」への耐性には強みがあります。
保有銘柄の上場廃止リスク
株式市場と同様に、不動産投資信託にも「上場廃止」の基準が存在します。
上場廃止が決まれば取引価格の暴落を誘発するほか、買い手不在により取引自体が成立しないケースも多々。上場廃止となる基準を知り、それらに抵触する可能性が高い投資先を回避する意識が大切です。
ただし、規定は10項目以上あり暗記するのは困難であるため、以下に最低限覚えておきたい項目をピックアップしました。
投資家が覚えておくべき上場廃止の基準
・上場投資口口数が4,000口未満である場合
・毎年12月末の時点で、1年間の売買高が20口未満である場合
・純資産総額が5億円未満となり、1年以内に5億円以上にならない場合
・資産総額が25億円未満となり、1年以内に25億円以上にならない場合
・資産内訳における不動産比率が70%未満となり、1年以内に70%以上にならない場合
出典:(JPX日本取引所グループ「上場制度」を一部抜粋・改編)
これらの基準は、証券取引所の銘柄データや投資法人の公式ページから確認できます。売買する投資家が少なく、資産総額が下降傾向にある銘柄には注意しましょう。
投資法人の倒産リスク
不動産投資信託は誕生当初、非常に安定した金融商品として注目されていました。しかし、歴史に残る金融恐慌「リーマンショック」を間接的な原因として、ニューシティ・レジデンス投資法人が国内初となる経営破たんを起こしたのです。
この倒産は市場に驚きをもたらし、合併に関連する法改正を推進する材料となりました。これにより、経営不振で倒産する可能性はいくらか減少したものの、リーマンショック級の金融危機が訪れたときに大打撃を阻止しきれる保証はありません。
不動産投資信託には、それぞれ倒産リスクが潜んでいることを覚えておいてください。
ニューシティ・レジデンスの倒産から不況時のリスク管理を学ぶ
前述した国内初の倒産事例である「ニューシティ・レジデンス投資法人」は、購入予定であった不動産の決済金額を調達できず、購入キャンセルにともなう違約金の発生で破たんしました。
そもそもの背景に潜んでいた問題は、サブプライムローンがまねいたリーマンショックの余波。購入が決まっていた約280億の不動産に借入が付かなかったのは、金融恐慌による融資の引き締めによるものだったのです。
融資が不動産投資信託の財務状況を左右する
不動産投資信託は、投資効率の最大化のために融資を最大限利用します。そのため、融資の可否や借入条件の違いが、財務状況に多大な影響を及ぼします。
個人投資家とは異なり、資産運用会社が売買する不動産はどれも数億~数十億円。融資が下りないリーマンショック時ほどの引き締めに限らず、たとえ1,2%ほどの金利上昇でも数百万円以上の打撃を受けるのです。
融資引き締めを見極める方法
不動産投資信託へ投資するときは、金融機関の融資に対する姿勢に注目しましょう。たとえば、2018年にはスルガ銀行の不正融資を筆頭に、さまざまな不祥事が起こりました。
これらは融資審査が下りないと予想される案件を、情報操作によって偽造。強引に審査を通過させた悪質な問題です。
このような状況が連続して続けば、金融機関は審査基準となる情報の正誤が分からなくなり、十分な返済能力が約束された融資案件にしか審査が下りなくなってしまうのです。
結果として、投資法人もスムーズな借入が難しくなり、資金繰りに影響を与える可能性があります。そのため、不正融資が続く状況では、不動産投資信託への投資に慎重な姿勢が求められます。
不動産投資信託(REIT)を低リスクで運用するには?
不動産投資信託のリスクは、投資用語でいう「テクニカル分析」と「ファンダメンタル分析」を利用して対策を進めます。
この項では、リスク管理に劇的な効果をもたらす「5つのポイント」をご紹介します。
上昇トレンド(順張り)のタイミングで投資する
価格推移をあらわすチャートが右肩上がりになっていれば「上昇トレンド」だと判断できます。東証REIT指数と個別銘柄のチャートを確認し、両者の日足・週足が上昇トレンドであれば投資を始める理想的なタイミング。
上昇トレンドにあわせて投資する手法は「順張り」と呼ばれ、利益を得やすい基礎戦術として多くの投資家に活用されています。このとき、東証REIT指数や個別銘柄の片側が下降しているときは手を出さず、どちらも同時に上昇している状況で投資することが利益獲得のカギです。
また、両方のチャートが下落している「下降トレンド」は、投資初心者がもっとも手を出してはいけないタイミング。購入時点からもズルズル値下がりする可能性が高いため、順張りに絞って投資時期を見定めましょう。
値動きが小さい不動産タイプを把握する
各投資法人にはそれぞれ運用方針があり、取り扱う不動産タイプには違いがあります。不動産投資信託で多く取り扱われている不動産タイプは以下の4つ。
不動産タイプ | 契約相手 | 価格変動 |
---|---|---|
オフィスビル | 法人 | 大きい |
商業施設 | 法人 | やや大きい |
住宅 | 個人 | 安定的 |
物流施設 | 法人 | 安定的 |
出典:(不動産証券化協会「Jリートダイジェスト」を抜粋・改編)
※横スクロールできます。
都心部の企業と契約するオフィスビルや商業施設は、景気変動よる価格推移が大きい傾向。一方、人々の居住や食料品・工業品を管理する物流施設は、景気変動による需要への影響が少ないため価格推移は小さいです。
そのため、低リスクな運用を目指すのであれば、住宅や物流施設を中心に扱う銘柄が適しています。
大手企業がスポンサーの銘柄に投資する
資産運用会社は投資家から預かった資金のほか、サポート役となる「スポンサー」から与えられる資金を運用費にくわえます。さらに、資金面のほか人材紹介や情報収集など、不動産運用を有利に進める材料を提供してくれるため、スポンサーに迎えた企業次第で運用規模は大きく変わるのです。
理想的なスポンサーは「不動産会社」や「大手金融機関」
スポンサーのもつ「不動産運用への親和性」は特に重要視されます。運用成績は不動産の収益性や調達できる運用費に左右されるため、業界内に太いパイプをもつ不動産会社や、資金調達の能力が優れている大手金融機関がサポート役として理想的です。
国内の不動産投資信託では初となる資産規模1兆円を達成。その後も時価総額トップに位置している「日本ビルファンド投資法人」は、不動産業界で最大規模を誇る「三井不動産株式会社」がスポンサーとして付いており、このことからもサポート役の重要性が分かります。
割安・割高を指標から判断する
数字を利用した分析は難しいように感じますが、NAV倍率とFFO倍率は一目で割安・割高が確認できる優れもの。それぞれ、情報サイトからスコアを参照するだけで完結するため、積極的に利用することをおすすめします。
NAV倍率
NAV倍率は「純資産価値」を判断するための指標で、分析対象の取引価格と適正価格のギャップを算出する用途に活用します。
NAV倍率が1.0を超えるなら、現在の取引価格は適正価格よりも割高。適正価格への価格引き戻しが起こると判断できます。一方で、NAV倍率が1.0を下回るなら、現在の取引価格は適正価格よりも割安。これから適正価格まで値上がりすると予想できます。
NAV倍率の活用方法はシンプルで、投資初心者でも銘柄選定に取り入れることが容易。NAV倍率は不動産投資信託の情報サイト「JAPAN-REIT.COM」ですぐに確認できるため、積極的に利用することをおすすめします。
FFO倍率
FFO倍率は「分析対象の収益性」の算出にもちいる、複数の分析対象から割安・割高を判断するための指標。分析対象のうちFFO倍率が高いものは割高。FFO倍率が低いものは割安だと判断します。
比較対象1 | 比較対象2 | 割安だと判断できる対象 |
---|---|---|
FFO倍率50の「銘柄A」 | FFO倍率30の「銘柄B」 | 「銘柄A」より「銘柄B」が割安 |
FFO倍率55の「REIT市場」 | FFO倍率50の「銘柄A」 | 「REIT市場」より「銘柄A」が割安 |
※横スクロールできます。
上記のように「銘柄同士」や「市場と個別銘柄」など、分析対象のサイズに関係なく活用できるため、使い勝手の良い指標として知られています。
FFO倍率は「J-REIT INSIGHT」にて確認可能。NAV倍率と一緒に利用することで、さらに銘柄選定の精度を高められます。
複数の対象に分散投資する
大規模な被災や投資法人の倒産など、不動産投資信託の運用にはリスクが潜んでいます。これらのリスクを軽減させるためには分散投資が効果的。
たとえば「銘柄A」にすべての投資資金を充てていたとき、金融危機で銘柄Aの投資法人が倒産すれば投資家は大打撃を受けます。しかし、投資資金を半分ずつ「銘柄A」と「銘柄B」に充てれば、銘柄Aの投資法人が倒産してもダメージは半分におさえられるのです。
分散先を増やすほど「一部の損失を他で補う」という効果が強くなるため、低リスクな運用を重視するのであれば分散投資は欠かせません。
まとめ
不動産投資信託も他の金融商品と同様、さまざまなリスクを抱えています。しかし、その多くは投資家の知識と危機意識により対策が取れるのです。
当てずっぽうな運用で大きな損失を生まないためには、上昇トレンドにのり運用不動産やスポンサーをチェック。指標を利用して割安銘柄を探しつつ、分散投資を心がけることが大切です。
そして、近年業界を騒がせている不正融資の存在に注意しつつ、融資の引き締めによる市場動向にも意識を向けてみてください。