投資信託の確定申告完全ガイド2020
投資で利益を得た場合は、所得として税金が課税されるのをご存知でしょうか?所得税や住民税は、ほとんどの投資によって得た利益が対象となります。
たとえば株式の場合。企業の株を保有していると、決算のあとに配当金が投資家へ分配されます。また、株を売却したときに買ったときよりも高く売ることができれば、その差額分も利益です。
こうした利益は所得税の課税対象になるため、年度末に確定申告を行い納税しなければなりません。
では、投資信託の場合はどうなのでしょうか?ここでは、投資信託の運用によって確定申告が「必要なとき」と「不要なとき」の仕組みについてご紹介します。
目次
投資信託での確定申告は必要?
投資信託も株式やFXなどと同様に、利益を得たら原則として確定申告が必要です。しかし、場合によっては確定申告が不要なときもあります。 投資信託は、1人で株や不動産を購入して行うものではありません。投資信託を取り扱っている販売会社(銀行や証券会社)がたくさんの投資家達から資金を集めて、委託会社(運用会社)によって投資信託が運用されています。
投資信託も株式と同じように、保有し続けていると分配金がもらえます。また、投資信託を解約した際に、購入したときの基準価額よりも価格が高くなっていればキャピタルゲインとして差益が得られる仕組みです。
こうした分配金や売却益は所得とみなされます。そのため、原則として分配金や売却益に対して税金が課税されることに。もし課税対象の所得があるときは、確定申告を行い納税する義務があります。
投資信託で確定申告が不要な条件とは?
投資信託の運用によって得た利益に課せられる税金に関しては、源泉徴収されている場合が多いです。もし源泉徴収されているのであれば、確定申告を行う必要はありません。
投資信託は主に「株式投資信託」と「公社債投資信託」に分類されています。 もし分配金を受け取った場合、株式投資信託の分配金は2種類。
- 普通分配金
- 元本払戻金(特別分配金)
普通分配金に対しては所得税と住民税が課せられます。分配金が支払われる際には、課税される税金分が源泉徴収された状態で分配金を手にすることになるのです。 一方、「元本払戻金」は株式を購入した元本が払い戻しされるので、そもそも課税対象になりません。
株式や債券を売却したときに得た利益に関しても、源泉徴収口座であれば確定申告は不要です。正式には「特定口座の源泉徴収口座」と言い、源泉徴収は口座の金融機関が行います。
また、NISA口座(ニーサ・つみたてNISAなど)やiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は非課税口座となるため、税金負担が無く確定申告が不要です。
投資信託の口座は大きく4つに分かれる
投資信託の口座はどんなものがあるのでしょうか?投資信託の主な口座は4つに分けられます。
非課税口座
NISA(ニーサ)口座を開設して株式投資信託などを購入すれば、分配金や売却益(譲渡益)は非課税になります。 NISAとは、少額投資非課税制度のことで、国民の預貯金などをできるだけ投資に回してもらうことを目的とした制度です。NISA口座を使って投資で得た利益は、年間120万円までであれば、非課税になります。
特定口座の源泉徴収口座
証券会社で特定口座を開設することができます。特定口座を開設しておけば、損益を確定申告する際にかなり楽になります。
たとえば、投資を行う際には、1年のあいだに何度も取引をして利益を出そうとするのが一般的。株式であれば常に相場が動いているため、何十回、何百回と取引を行うことがあります。 確定申告をするときに、投資家は株式投資をした1年間の取引のすべてを集計して申告しなければなりません。 とても大変な作業になりますね。
特定口座であれば、証券会社が代わりに取引の集計を行ってくれるのです。また、特定口座を開設する際には「源泉徴収あり・なし」を選ぶことができます。 「源泉徴収あり」を選択した場合は、投資によって得た利益から税金分を金融機関が源泉徴収してくれるのです。そのため、確定申告をする必要がありません。
正式には、「特定口座の源泉徴収口座」と言います。
源泉徴収しない特定口座
特定口座の開設時に「源泉徴収なし」を選んだ場合は、「簡易申告口座」となります。金融機関が源泉徴収をしないため、投資で利益を得た場合は自分で確定申告をしなければなりません。
ただし、簡易申告口座であれば投資を行った1年間の取引を集計して証券会社が集計してくれます。証券会社から「特定口座年間取引報告書」が送付されてくるので、取引報告書を見ながら確定申告書へ記入していきましょう。
一般口座
口座開設時に特定口座を選ばなければ、一般口座になります。一般口座の場合は、投資の取引を自分で計算しなければなりません。また、一般口座は課税対象なので、当然ながら確定申告を行う必要があります。
投資信託で確定申告が不要な口座
投資で利益を得た場合は、原則として所得税や住民税の課税対象となります。年度末に入ると確定申告をして1年間で得た所得を税務署へ申告する必要があります。
前述の通り、そもそも税金負担が無い口座や、投資の利益が課税対象ではあっても金融機関に源泉徴収してもらうことで確定申告が不要な場合もあります。
- 非課税口座
- 特定口座の源泉徴収口座
上でも出てきましたね。では、非課税口座であるNISA(ニーサ)は具体的にどういうものなのでしょうか? また、投資信託に利用できるiDeCo(イデコ)についても、なんとなく聞いたことはあるけどよく知らない、という方も多いのではないでしょうか。
NISAとiDeCoを使って投資信託することで、大きな節税効果につながります。
NISA(ニーサ)とは
少額投資非課税制度であるNISAは2014年からスタートしました。NISAを利用する最大のメリットは、年間120万円までなら税金の負担がいっさい無いことです。投資信託で得た分配金や売却益に対して非課税。そのため、確定申告が不要です。
たとえば一般口座で投資信託を始めて、5年間継続して金融商品を保有していた場合。毎年、分配金が得られますが、分配金に対して税金が課せられます。源泉徴収なしなら、きちんと確定申告をして納税しなければなりません。
そして、5年後に保有していた投資信託を解約しました。投資信託の価額が購入したときの基準価額よりも解約時のほうが高くなっていれば差益を得ることができますが、その譲渡益に対しても税金が課税されます。
株式投資信託に課税される税率は、分配金・譲渡益共に20.315%です。かなり大きな税金負担と言えるでしょう。 ところが、NISA口座を利用していれば、投資信託に掛かる税金負担はありません。 同じ投資信託を行うにしても、一般口座などと比べると大幅な節税効果があることがわかります。
NISA(ニーサ)のデメリット
NISAは非課税口座として大きなメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。
- 原則として1人1口座のみ
- 非課税は年間120万円まで
- 金融商品が買えるのは年間120万円まで
- 非課税の期間は5年間だけ
- 損益通算ができない
- 3年間の損益繰越しができない
- 配当金の受け取りは「株式比例配分方式」以外だと課税される
こうして見るとデメリットが多いように感じますね。デメリットの部分もしっかり確認することで、「失敗しないNISAでの投資信託」ができるようになります。
NISAは1人で1金融機関の口座しか開設することができません。また、投資信託の利益が非課税になるのは120万円まで。さにら、この120万円までしか投資信託を買うことができないように制限されています。
たとえば株式を60万円分買った場合、残りの枠は60万円分ありますよね。もし、そのあと買っていた株式を60万円分すべて売ったとしても、購入できる枠が120万円に戻ることはありません。年内は残りの枠分である60万円分しか購入することができないのです。
NISAは、「損益通算」や「3年間損益繰越」をすることができません。NISA以外の口座で並行して投資信託を行っていた場合、どちらか一方は損失が出て、もう一方は利益が出ている場合でも損益を相殺できないのです。
NISA口座で配当金を受け取る方法に要注意
通常のNISA口座であれば、配当金は非課税です。しかし、配当金の受け取り方を間違えてしまうと、たちまち課税対象になってしまうので注意しましょう。
NISAの口座で配当金を受け取るときは、いくつかの方法がありますが、「株式比例配分方式」でないと非課税にならないのです。
「株式比例配分方式」は証券会社を通して口座に配当金が入金されます。しかし、他の受け取り方式では、「他の銀行」や「ゆうちょ銀行」などで配当金が入金されることになるため、課税対象になってしまうのです。
NISA口座を開設したら、配当金の受け取り方法には気を付けておきましょう。
iDeCo(イデコ)とは
iDeCo(イデコ)とは、確定拠出型年金制度のこと。iDeCoは、毎月一定の掛金を投資信託などに積み立てていき、60歳以降になると積み立てたすべての資産を受け取れるという仕組みです。
具体的には、個人が掛金として毎月一定額を拠出(支払い)して、投資信託などの金融商品を購入していきます。個人で築いていく私的年金のような位置づけですね。
iDeCoが「個人型」確定拠出年金なのに対して、「企業型」の確定拠出年金(企業型DC)もあります。 企業型DCは、従業員に代わって企業が毎月積立金を支払い、従業員が60歳以降に退職することがあれば退職金代わりとして支払います。
iDeCo(イデコ)は誰でも利用できる
もし、企業型DCに加入していないという方は、iDeCoを利用して自分で年金を築いていくことが可能です。 iDeCoは、会社員や公務員だけではなく、パートタイマーやアルバイト、自営業、主婦の方も利用することができます。
iDeCo(イデコ)の特徴
iDeCoは大きな節税効果が期待できます。
- 所得税と住民税の控除がある
- 運用時に利益を得ても非課税
- 受け取るときは退職所得控除がある
iDeCoを利用して投資信託に積み立てていく掛金は、所得税と住民税の控除が受けられます。また、投資信託を運用している期間中に配当金などによって利益を得た場合でも非課税です。 60歳を過ぎて積み立てた資産を受け取る際にも、一括で受け取るときは「退職所得控除」の優遇があるため、大幅に税金が軽減されます。
iDeCo(イデコ)のデメリット
iDeCoは安定した資産形成と大きな節税効果がありますが、デメリットもあるので注意しましょう。
- 積み立てた資産は60歳まで引き出せない
- 運用手数料が掛かる
- 途中で解約することができない
- 投資信託での損失がでることもある
- ふるさと納税の寄付額を圧迫する
そもそもiDeCoは個人型確定拠出年金なので、老後の資産を形成することを目的としています。そのため、60歳になるまで積み立てた資産を引き出すことができません。 ただし、一定の要件を満たせば脱退一時金として積み立てた資産が戻ってくる場合があります。
基本的には途中で解約することができないので、iDeCoを始める前にじっくりと検討しましょう。 iDeCoを投資信託で運用している場合は、損失が出て元本割れすることもあります。
投資信託はローリスク・ミドルリターンとして注目されていますが、預貯金とは異なり元本保証がありません。どんな方法で積み立てていくか、ご自分のスタイルに合わせて選びましょう。 もしiDeCoを定期預金で運用する場合は元本保証があります。
iDeCo(イデコ)はふるさと納税に影響する!?
ふるさと納税は、市区町村(自治体)に寄付をすると翌年の住民税が軽減するメリットがあり、メディアでもよく取り上げられています。
しかし、iDeCoを利用することで所得控除を受けると、ふるさと納税で控除される上限が圧迫されてしまう可能性が。ふるさと納税の控除には上限が設けられています。
せっかくふるさと納税による控除を期待して自治体に寄付をしても、iDeCoの所得控除を受けていたために思ったより住民税が減っていなかった、という場合もあるのです。
しっかりと計算しながらiDeCoとふるさと納税をうまく利用すれば、2つの税制優遇によってさらなる節税効果が期待できます。
確定申告をしなくてもいい場合
NISAや「特定口座の源泉徴収口座」以外での一般口座などで、確定申告が不要な場合もあります。
条件としては、「年間所得が2,000万円以下の給与所得者で、給与以外の所得が年間20万円以下」の場合です。投資信託などで得た利益が1年間で20万円以下であれば、確定申告をする必要はありません。
含み益だけでは課税されない
投資信託で株式を保有していると、含み益や含み損が出ることがあります。株価は常に変動しているので、当然ながらこうした現象が起こります。 譲渡所得税が課税されるのは、株を売却して利益を得た場合です。含み益の段階ではまだ利益が確定していないので、税金が課税されることはありません。
そのため、含み益があっても利益を確定しない限りは確定申告も不要です。
そもそもどうして確定申告が必要なの?
企業に勤めているサラリーマンの方であれば、給与が支払われるときに所得税分が源泉徴収されています。企業が予め従業員の給与から所得税を差し引いて(源泉徴収して)、代わりに税務署へ納税してくれているのです。 こうした理由から、給与以外の所得が無ければサラリーマンは確定申告をしなくてもかまいません。
サラリーマンの源泉徴収と同じように、投資信託の特定口座で「源泉徴収あり」を選択している場合は、確定申告が不要です。投資信託の利益に課税される所得税は、証券会社が代わりに納税してくれます。
所得を得たときは、所得税法によって定められた税率を乗じて納税するのが国民の義務です。もし、投資信託の口座が「源泉徴収なし」なのであれば、自ら確定申告をして納税しなければなりません。
こんなときは確定申告をしたほうが良い
投資信託で利益を得ていなくても、確定申告をしておいたほうが良い場合もあります。
投資信託による損失を翌年に繰り越す場合
投資信託で株などを運用していると、損失が出てしまうこともあるでしょう。今年は損失が出てしまったけど、来年はプラスの利益になるかもしれません。 もし来年、投資による所得が増えた場合は、その分の税金負担も大きくなってしまいます。そこで、今年の損失分を確定申告しておくことで、来年の利益と相殺することが可能です。
投資信託の分配金や損失などを損益通算したい場合
投資信託で株を購入していて損失が出てしまったが分配金はもらった、という場合はどうでしょうか?
株を売却して損失が出てしまっていたら、分配金による所得と相殺して税金負担を減らすことが可能です。 投資による損失と利益を相殺することを損益通算と言います。損益通算をしたい場合は、確定申告をしなければなりません。
複数の投信口座が混在している場合
Aの口座では利益が出ているが、Bの口座は損失が出ている、という場合。こちらも損益通算によって利益と損失を相殺して税金負担を軽減することができます。 もちろん、確定申告は必要です。
まとめ
投資信託によって所得を得た場合は、原則として確定申告をして所得税を納税しなければなりません。ただし、源泉徴収をしてもらえる特定口座や、そもそも非課税となるNISAなどの口座であれば確定申告は不要です。
iDeCoであれば実質非課税とすることもできるので、投資信託をする際は積極的に利用すること節税効果が高まるでしょう。 もし、投資によって損失が出てしまっても、確定申告をしておくことでメリットがあります。損益通算や繰り越しなどを利用すれば、他の利益と相殺して税負担を抑えることが可能です。
投資信託の運用は、必ずしも確定申告が必要とは限りません。しかし、損益通算をするために確定申告をすれば節税対策につながる場合もあるのです。
ご自分の投資スタイルに合わせて、投資信託の特定口座やNISA・iDeCoなどを活用していきましょう。