退職金なしは合法!退職金があっても安心できない4つの理由
先日、金融庁の資料に「老後は2,000万円の資金が必要」という旨の報告書が提出されました。この報道を受け、老後資金について不安を覚え「うちの会社は退職金が出るのか?」と思った人もいるでしょう。
退職金は大事な老後資金なので、このように思うのは無理もありません。結論からいうと、「退職金がない」というのは合法なので、退職金がない会社もあります。
そこで今回は、「退職金」にフォーカスを当て、退職金がない会社はどのくらいあるのか?退職金があっても老後に注意すべきことは何か?について解説していきます。
退職金なしの会社も存在する
冒頭のように、退職金がないという会社も存在します。そのため、まずは会社と退職金の関係について以下の点を知っておきましょう。
- 退職金なしの会社は約2割
- 小規模な会社ほど退職金がない
- 退職金は会社の義務ではない
退職金なしの会社は約2割
厚生労働省が出典する資料「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」によると、退職金制度がない会社は全体の19.5%にのぼります。
つまり、5社に1社は退職金制度がないので、退職時に退職金を受給できないということです。
退職金は1,000万円単位でもらえること会社も多いため、退職金がないのであれば、その資金は老後までに自分でつくらなければいけません。
5年前に比べると減少傾向
「退職金がない」という状況は、実は5年前と比較すると減少傾向にはあります。同じく厚労省が出典している平成25年の資料によると、平成25年時点では退職金制度がない企業は24.5%でした。
小規模な会社ほど退職金がない
また、規模(従業員数)別に退職金の有無を見てみると以下の通りです。
企業規模 | 退職金制度なし | 退職金制度あり |
---|---|---|
合計 | 19.50% | 80.50% |
1,000人以上 | 7.70% | 92.30% |
300~999人 | 8.20% | 91.80% |
100~299人 | 15.10% | 84.90% |
30~99人 | 22.40% | 77.60% |
大企業でも退職金制度がない場合もある
このように、規模が小さくなるほど退職金制度がありません。ただし、従業員1,000人を超える規模の会社でも、約7.7%の会社で退職金制度を導入していません。
そのため、現在勤務している会社が大手だとしても退職金制度の有無は確認した方が良いですし、これから転職を考えている会社でも確認しておくと良いでしょう
今後転職するときも注意
もちろん、退職金の有無だけで会社を判断できませんが、退職金があるかないかで、その会社からもらえる報酬が変わります。
つまり、退職金の有無というのは会社選びの重要な要素である「収入」に関連してくるので、転職時には重視すべきというわけです。
退職金は会社の義務ではない
この章のさいごに、「退職金は会社の義務ではない」という点について、以下を知っておきましょう。
- 退職金制度は法律で定めれていない
- 退職金制度があっても注意
退職金制度は法律で定めれていない
前項までで「退職金なし」の会社が一定数あることが分かりましたが、そもそも退職金制度は法律で定められているわけではなく会社の任意になります。
つまり、退職金制度がない会社は当然ながら違法しているわけではないので、退職時に退職金を請求しても意味がありません。
退職金制度があっても注意
詳しくは次項で解説しますが、退職金制度がある会社も油断できません。というのも、退職金については法的に定めがないので、全ては会社の就労規則に定められているからです。
そのため、退職金の受給額はもちろん、支給方法なども含めて会社側で定めているのです。
入社時に退職金制度について調べてから入社する人は少ないと思うので、勤務先の就労規則を確認して、退職金について調べてみると良いでしょう。
退職金があっても安心できない4つの理由
さて、前項までで退職金なしの会社も一定数存在し、自社の就労規則を確認した方が良いという点は理解できたと思います。
次に、仮に退職金制度がある会社だとしても安心できない、以下4つの理由について解説していきます。
- 老後に退職金を受け取れるとは限らない
- 給付額は年々下がっている
- そもそもの給与水準が上がっていない
- 年金を含めても老後資金が足りないかもしれない
老後に退職金を受け取れるとは限らない
退職金があっても安心できない1つ目の理由は、退職金は老後に受け取れるとは限らないからです。というのも、退職金には前払い退職金制度があるので、必ず老後に支給されるわけではありません。
この点について以下を知っておきましょう。
- 前払い退職金制度とは?
- 前払い退職金制度のメリット
- 前払い退職金制度のデメリット
前提として、一般的な退職金は退職時に一括でもらうか年金方式でもらうかという2択である点は認識しておきましょう。また、前払い退職金制度を導入している会社でしか、この制度は利用できません。
前払い退職金制度とは?
前払い退職金制度とは、退職金を在職時の給与に上乗せする制度です。要は、将来もらえる退職金を、若いうちからもらう制度になります。
当然ながら、前払い退職金制度を選択すると、退職時には退職金はもらえません。そのため、「退職金なし」の会社と同じように、老後資金は自分で貯める必要があります。
たとえば、「新卒のときに『前払い退職金制度』を選択していた」などのパターンもあるので、自分が前払い退職金制度を選択しているか?仮に選択していれば切り替えは可能か?などを確認しておきましょう。
前払い退職金制度のメリット
前払い退職金制度のメリットは以下です。
- 月々の給与が高くなる
- 退職金がもらえなくなるリスクの回避
- 早期転職の場合は得することもある
やはり、月々の給与が高くなる点が大きなメリットです。逆にいうと、退職時に退職金はもらえないので、「多くなった給与」で資産運用などをして老後に備える必要があります。
また、退職金は企業の破綻などでもらえない可能性もあり、早期転職の場合は「在職期間が短い」ことで退職金が支給されないこともあります。
前払い退職金を受け取ることで、これらのリスクを回避できる点はメリットといえるでしょう。
前払い退職金制度のデメリット
前払い退職金制度のデメリットは、一括で受け取るパターンと年金で受け取るパターンよりも手取り収入が減ることです。
というのも、一括受け取りと年金受取の場合は所得控除などが大きいので、税金が安価なのです。一方、前払い退職金でもらうと単に給与が上がるので、税金が上昇します。
それを加味すると前払い退職金の方が手取り収入は低くなるので、もし前払い退職金制度を選ぶ場合は手取り収入が減ることを認識しておきましょう。
給付額は年々下がっている
退職金があっても安心できない2つ目の理由は、退職金の給付額は年々下がっているからです。
みずほ総合研究所のデータによると、退職受給額は以下のように減少傾向にあります。
受給者の種別 | 2018年(2013年からの増減率) | 2013年 |
---|---|---|
大学(院)卒 | 1,788万円(-7.9%) | 1,941万円 |
高校卒(管理・事務・技術職) | 1,396万円(-16.6%) | 1,673万円 |
高校卒(現業職) | 1,155万円(+2.3%) | 1,128万円 |
全体的に給付額は下落している
このように、高校卒(現業職)こそ微増していますが、ほかは下落しています。そして、特に高校卒(管理・事務・技術職)の減少率は16.6%と大幅な下落となっているのです。
さらに、退職時にもらっていた賃金は2013年と2018年はほぼ変わっていないので、単純に退職金の受給額だけが下がっているということになります。
受給を決める3つの要素
そもそも、退職金額は一般的に以下3種類あります。
- 定額制
- 給与比例制
- ポイント制
定額制とは、給与額や役職に関係なく、勤続年数に応じて退職金が決まる制度です。一方、給与比例制とは、退職時の給与に勤続年数などを加味して退職金を決めます。
さいごのポイント制とは、勤続年数・資格等級など、色々な要素を加味してポイント制にして、そのポイントの合計で退職金を算出します。
これらも会社によってルールが異なるので確認しておきましょう。仮に、給与比例制であれば、その基準が下落することで、同じ給与額でも退職額だけ下落する可能性はあります。
そもそもの給与水準が上がっていない
退職金があっても安心できない3つ目の理由は、そもそも給与水準が上がっていないからです。
国税庁の平成29年分民間給与実態統計調査結果についてという資料によると、過去10年の給与水準は以下の通りです。
年度 | 平均給与額 | 前年比 |
---|---|---|
平成19年 | 4,372千円 | 0.5% |
平成20年 | 4,296千円 | ▲1.7% |
平成21年 | 4,059千円 | ▲5.5% |
平成22年 | 4,120千円 | 1.5% |
平成23年 | 4,090千円 | ▲0.7% |
平成24年 | 4,080千円 | ▲0.2% |
平成25年 | 4,136千円 | 1.4% |
平成26年 | 4,150千円 | 0.3% |
平成27年 | 4,204千円 | 1.3% |
平成28年 | 4,216千円 | 0.3% |
平成29 年 | 4,322千円 | 2.5% |
このように、多少の上下を繰り返していていますが、たとえば平成19年と平成29年を比較すると、給与は上昇するどころから下落しています。
前項のように退職金給付額が下がっていて、さらに給与水準は変わっていないということは、老後に残るはずのお金は減少しているということです。
年金を含めても老後資金が足りないかもしれない
退職金があっても安心できない4つ目の理由は、年金を含めても老後資金が足りない可能性があるという点です。
老後資金が足りるかどうかについては、以下の点を確認しましょう。
- 老齢基礎年金の平均受給額
- 厚生年金の平均受給額
- 老後に必要な資金
- 老後資金は足りるか?
老齢基礎年金の平均受給額
まず、自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者がもらえる老齢基礎年金は、原則65歳からの受給です。
そして、20歳から60歳まできちんと保険料を支払いつづければ、満額である780,100円(年間)が支給されます。
厚生年金の平均受給額
厚生年金は会社員や公務員がもらえる年金です。会社員や公務員は、前項の老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金をもらえるので、自営業者やフリーランスよりも手厚い年金制度なのです。
厚生年金の保険料額は年収によって異なり、支払った保険料によって受給額も変わります。つまり、年収が高い方が結果的に老齢厚生年金の受給額が多くなるということです。
厚生労働省のデータによると、老齢厚生年金の月額の平均支給額は以下の通りです。
- 全体平均:年額1,764,612円、月額147,051円
- 男性平均:年額2,000,016円、月額166,668円
- 女性平均:年額1,236,312円、月額103,026円
老後に必要な資金
そして、老後に必要な資金は、生命保険文化センターが行った意識調査によると、老後(夫婦2人)を想定して以下の通りです。
- 最低日常生活費:月額22万円(年間264万円)
- ゆとりある老後生活:月額34.9万円(年間418.8万円)
老後資金は足りるか?
さて、上記を踏まえた上でプロフィールに別に老後資金が足りるか?を検討したところ、以下のような結果になりました。
項目 | 年金受給額 | 不足金額(最低限の日常生活) | 不足金額(ゆとりある生活) |
---|---|---|---|
自営業者の夫と専業主婦 | 約156万円 | 約108万円 | 約262万円 |
会社員の夫婦 | 約479万円 | 足りている | 足りている |
会社員の夫と専業主婦約 | 約356万円 | 足りている | 約65万円 |
このように、会社員の夫婦の平均値でようやく足りるという結果であり、ほかのプロフィールの方は不足が生じています。
仮に、退職金を加味しても不足が生じる場合もあるので、自分の年金額は把握しておいた方が良いでしょう。気になる方はねんきんネットで調べてみましょう。
資産形成におすすめな方法3選
前項のように、仮に退職金が出たとしても老後は不足金が生じるかもしれません。
そして、そもそも退職金がない…もしくは前払い退職金制度を利用している…あるいは退職金が少ない…という人もいると思います。
その場合、老後に備えて自分自身で資産運用をしておく必要があります。そんな「老後の資産形成」におすすめ方法は以下3つです。
- iDeCo
- 不動産投資
- つみたてNISA
特に、前項までの内容を受け「老後資金が足りなくなりそう…」という人は、早いうちから資産運用しておく必要があります。
iDeCo
1つ目におすすめするiDeCoについて以下を知っておきましょう。
- iDeCoとはなにか?
- iDeCoは掛け金を控除できる
- iDeCoは運用益が非課税
- iDeCoは受給時もメリットがある
結論からいうと、iDeCoは税制優遇が大きいので、効率良くお金が増えていくため、老後資金をつくるのに向いているというわけです。
iDeCoとはなにか?
iDeCoは「個人型確定拠出年金」のことであり、個人で年金を上乗せするという制度のことです。
iDeCoは証券会社で口座をつくり、毎月の掛け金(投資金額)を設定し、そのお金で投資信託などを取得して運用します。そして、その運用したお金を原則60歳から受け取るという仕組みです。
そもそも、年金は上述したように自営業者は老齢基礎年金、会社員はそれに加えて老齢厚生年金が支給されます。
しかし、老後の資金確保のために「自分で資金を運用して年金を上乗せする」のが、iDeCoの役割になります。
iDeCoは掛け金を控除できる
一見すると、「普通に投資信託を購入するのと違わないのでは?」と思う人もいるでしょう。しかし、iDeCoで資産運用すると税制優遇が大きいので、効率良く資産運用できるのです。
まず、iDeCoは掛け金を所得控除できます。たとえば、給与所得500万円の会社員であれば、所得税額は572,500円になります。
仮に、iDeCoで月3万円(年36万円)の掛け金を設定していれば、所得は464万円(500万円-36万円)になり、所得税額は500,500円(▲72,000円)です。
通常の投資だと所得控除がないので、iDeCoの場合は節税にもつながります。
iDeCoは運用益が非課税
また、iDeCoは運用益も非課税です。iDeCoは投資信託などを取得し、その商品からの分配益や売買益などで資産を少しずつ増やしていきます。
通常の投資であれば、仮に分配益と売買益で利益が50万円出れば、一律20.315%の税率が課せられるので、101,575円の税金がかかります。
一方、iDeCoの場合は運用益に対しては非課税なので、前項と同じく効率よく資産を増やすことができるのです。
iDeCoは受給時もメリットがある
また、iDeCoは以下のように受給方法を選ぶことができます。
- 一括で受け取る
- 年金として受け取る
一括で受け取れば「退職所得控除」が利用でき、年金として受け取れば「公的年金等控除」が利用でき、どちらも節税効果が高いです。
つまり、iDeCoで資産運用すれば節税効果が高いので、効率よく資産運用することができるため、老後資金を確保するための方法として向いているのです。
不動産投資
2つ目におすすめする不動産投資については以下を知っておきましょう。
- 不動産投資とは何か?
- 不動産投資はレバレッジ効果が高い
- 不動産投資は比較的安定している
- 不動産投資は資産が残る
不動産投資とは何か?
不動産投資とは、区分(一室)マンションやアパート一棟などの不動産を保有し、その不動産からの賃料収入をメインにする投資です。
ほかにも、駐車場経営やシェアハウス、土地活用など、不動産に関連する投資は全て不動産投資ということができます。
不動産投資はレバレッジ効果が高い
不動産投資はローンを組んで購入するので、少ない資金でも大きな資産を保有でき、これを「レバレッジ効果が高い」といいます。
投資の収益は、基本的に「保有資産額×利回り」で決まるので、保有資産額が大きいほど投資に成功したときの収益は大きくなるということです。
つまり、若いうちからローンを組むことで高額な資産を保有でき、収益をコツコツと積み上げることで老後に備えることができます。
不動産投資は比較的安定している
不動産投資のメイン収益は「家賃収入」です。たとえば、株価が1年後に半値になることはあり得る話ですが、不動産の家賃収入が1年後に半値まで下がる可能性は極めて低いでしょう。
強いていれば、事故物件になったり、地震などで大きく損傷したりしたときくらいです。
このように、不動産投資は比較的安定しているので、老後資金をコツコツと貯める資産運用として適しているのです。
不動産投資は資産が残る
また、不動産投資は資産が残ります。たとえば、木造のアパート投資を35歳からはじめたとしたら、60歳のときは築25年になっているので、木造建物としての価値はゼロに近いでしょう。
しかし、不動産は土地が残りますし、建物もリノベーションすることで価値が上がることもあります。
そのため、60歳になりローンを完済したので、アパートを転売してまとまった資金を受け取る…ということも可能なのです。
つみたてNISA
3つ目におすすめする「つみたてNISA」については以下を知っておきましょう。
- つみたてNISAの仕組み
- 通常のNISAとの違い
- つみたてNISAの商品は低リスク
つみたてNISAの仕組み
つみたてNISAとは、証券会社に「つみたてNISA」の口座を開き、その口座を通じて取引することで、年間40万円までの投資が非課税になるという仕組みです。
たとえば、つみたてNISAの口座を利用し、Aという投資信託を40万円分取得し10万円の利益を得たとします。
本来は、20.135%の税率が課せられるので20,315円の税金がかかりますが、つみたてNISAで取引していれば非課税です。
つまり、iDeCoと同じように税制優遇が大きいので、効率的に資産運用できるというわけです。
通常のNISAとの違い
つみたてNISA以外に、通常の「NISA」もあります。この2つは併用することができず、違いは以下の点になります。
項目 | つみたてNISA | NISA |
---|---|---|
年間投資限度額 | 40万円 | 120万円 |
運用可能期間 | 20年間 | 原則5年間 |
細かい違いは色々とありますが、大きな違いは年間投資限度額と運用可能期間です。要は、つみたてNISAの方が年間投資限度額は低いですが、期間が長くなります。
老後資金を確保するためには、期間が長いつみたてNISAの方が向いてるといえるでしょう。
つみたてNISAの商品は低リスク
また、つみたてNISAは長期の資産運用を目的にしているので、 金融庁が以下の基準で低リスク商品を選んでいます。
- 販売手数料がゼロ
- 信託報酬は一定水準以下
- 分配頻度が毎月でない(利回りが下がる)
- 基本的にデリバティブ取引による運用を行っていないこと(ハイリスクの排除)
つまり、つみたてNISAで投資をすると、自動的に低リスクの資産運用になっているということです。
まとめ
このように、退職金がないのは合法であり、大事なのは自分の会社の退職金制度を把握しておくことです。そして、年金額を加味して老後資金は確保できているか?も合わせて確認しましょう。
仮に、老後資金を確保できないのであれば、早いうちから資産運用をして備えておかなければいけません。その際は、上述した「おすすめの資産運用方法」を参考にしてみてください。