退職金に税金はどのくらいかかる?不安を解決する4つの対策
退職後の生活を支えるための「退職金」には、税金が課せられることをご存知でしょうか?
今回は、退職金に課せられる税金の種類を解説し、税額の算出方法と具体例を徹底解説。
さらに、統計データから見えてくる「退職金にまつわる深刻な問題」をピックアップし、数十年後に退職金を受け取る会社員が「いま何をすべきなのか」についてご説明します。
目次
退職金に課せられる税金とは
退職時に受け取る退職所得には、所得税と住民税が課せられます。
税法により「退職所得」に分類されるものは、一般的に思い浮かべる退職金のほか、退職時に受け取る一時金。つまり、「退職を理由に受け取ることになった給与」は全て退職所得です。
具体的な一例としては、以下のものが挙げられます。
- 予告なしに解雇される場合に受け取れる「解雇予告手当」
- 「確定給付企業年金(別称:DB)」にもとづいて受け取る退職一時金
- 勤務先が倒産したときに国が給与を弁済する「未払金賃金立替制度」の受取金
より詳細な規定は、厚生労働省が発表する「退職所得となるもの」にて確認できます。
退職所得に課せられる税金や、確定申告の必要性はケースバイケース。金額や受け取り方により異なるため、課税額がどのように決まるのか解説していきます。
どの程度の税率が課せられるの?
退職所得は給与所得とは切り離して考える「分離課税方式」をもちいて、所得税額が決定します。
課税対象となる退職所得は、受け取った一時金から「退職所得控除額」を差し引いた金額の50%です。そのため、まずは勤続年数により変動する「退職所得控除額」から計算する必要があります。
税負担は「退職所得控除額」にて軽減可能
退職所得は、長年勤務先に貢献した労働者に対する報奨です。そのため「退職所得控除額」という税負担が軽減できるような規定が用意されており、勤続年数に応じて控除が受けられます。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 控除額=40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
たとえば、勤続年数が10年であれば控除額は400万円。勤続年数が30年であれば、1,500万円が退職所得から控除されるのです。
基本的に上記の基準が適用されますが、つぎのように例外となる2つのケースがあります。
- 障碍者になったことを理由に退職した場合、控除額は上記の計算に100万円加算されます
- 前年度以前に退職金を受け取った、または同一年度に2か所以上から退職金を受け取る場合、控除額の計算に特別な基準が設けられるケースがあります
なお、これらの退職所得控除を受けるためには、勤務先に対して「退職所得の受給に関する申告書」と呼ばれる書類の提出が必要です。
未提出である場合には、退職所得に対して20.42%の所得税を課せられることになり、受取人が自身で確定申告を行わなければなりません。
退職所得のスムーズな受け取り、控除の適用漏れを阻止するために、「退職所得の受給に関する申告書」は提出することをおすすめします。
所得税の算出にもちいられる基準
受け取った一時金から「退職所得控除額」を差し引いたものが、「課税対象となる退職所得」です。具体的な所得税額は、これらのポイントを押さえつつ以下の基準をもちいて算出します。
課税対象となる退職所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~194万9,000円 | 5% | - |
195万~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
出典:(厚生労働省「退職金と税」を抜粋・改編)
住民税の算出にもちいられる基準
住民税の計算も「課税対象となる退職所得」をもちいて算出します。
住民税の種類 | 税率 |
---|---|
市町村税(特別区民税) | 「課税対象となる退職所得」に対して6% |
道府県民税(都民税) | 「課税対象となる退職所得」に対して4% |
出典:(総務省「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」を抜粋・改編)
ここまでに解説した「退職所得控除額」と「所得税・住民税の基準」を使うことで、退職金に課せられる税額が分かります。
退職金に課せられる税額の具体例
退職金に課せられる税金の一例として、以下に計算式を用意しました。どの程度の税金が課せられるのか、ざっくりとイメージが掴めるはずです。
退職金に課せられる所得税額の具体例 | |
---|---|
勤続年数 | 30年間 |
退職所得 | 2,500万円 |
退職所得控除額 | 1,500万円=800万円+70万円×(30年間-20年間) |
課税対象となる退職所得 | 500万円=(2,500万円-1,500万円)×50% |
所得税 | 57万2,500円=500万円×20%-42万7,500円(控除額) |
復興特別所得税 | 1万2,022円=57万2,500×2.1% |
市町村税(特別区民税) | 30万円=500万円×6% |
道府県民税(都民税) | 20万円=500万円×4% |
課税総額 | 58万4,522円 |
所得税の合計は58万4,522円、住民税の合計が50万円となり、退職所得の手残りは2,391万5,478円となります。勤務先の退職所得に予想が付くのであれば、ぜひ各数字を当てはめて計算してみてください。
受取人の死亡により退職金を相続する場合は?
退職金を受け取るはずだった人が死亡し、その後3年以内に勤務先から退職金の支払いが確定したとき、その退職金は相続人が受け取ります。このとき、退職金には所得税が課せられず、代わりに負担しなければならないのが「相続税」です。
ただし、相続した退職金は全て課税対象となるわけではなく、以下の「非課税財産」を超過した金額分のみ相続税が課せられます。
- 非課税財産(円)=500万円×法定相続人の数
退職時に2,500万円を受け取る予定だった夫が亡くなり、退職金を妻・子どもを合わせた4人が相続した場合、2,000万円は非課税対象となり500万円に相続税が課せられます。
国内企業は退職金の給付率が低下している
先ほどは、退職所得の一例をもちいて課税額を計算しましたが、近年では「退職金の給付率低下」が深刻視されています。
5年に1度ずつ、厚生労働省が発表している「退職給付(一時金・年金)の支給実態」というリサーチによれば、平成30年度における退職金の給付率は77.8%。4,5社に1社は、退職金を給付していないという結果が出たのです。
これは平成以降の最高値である92.0%に比べて、14.2%も低いスコア。長期的に下落基調が続いており、今後もさらに低下していくと懸念する意見は少なくありません。
「定年まで勤めあげれば必ずもらえるもの」といった、従来の認識が通用しなくなる可能性は高いため、これからは退職金とは別に「自身で退職以降の資金を用意する」といった意識が必要になります。
退職金だけでは心細いとき実践すべきこと
私たちが退職したとき、退職金の給付率がどうなっているのかは分かりません。ただ統計データを見る限りでは、「退職金がもらえない」または「退職金がごくわずか」になっている可能性が高いと言えます。
こういった予想に対して不安や心細さを覚えるなら、いまの段階から資産形成を進めるのが賢明です。この項では、節税しつつコツコツと退職以降の資産を蓄えられる、優れた非課税制度をご紹介します。
「iDeCo」を利用して節税しつつ退職金を用意する
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、住民税や所得税を削減しながら貯蓄・投資できる私的年金制度。利用者は「定期預金」または「投資信託への投資」から運用方法を選択することで、いくつかの減税措置を受けられます。
そしてiDeCoが特に優れているのは、投資信託の運用利益が全て非課税になるという点です。通常であれば、投資信託の運用から発生した売買益・分配益は、全て20.315%の税金が課せられます。
たとえば100万円の利益を獲得しても、約20万円は税金として納めなければなりません。しかし、iDeCoを利用した投資信託の運用であれば、これらの税負担がゼロになるのです。
80万円が手元に残るのと、100万円が手元に残るのでは全く異なりますし、これがいくつも重なれば利益総額に大差が生まれるのはイメージできるはず。預けた資産と利益は60歳まで引き出せないこと以外は、目立ったデメリットのない素晴らしい非課税制度です。
退職後の資産を積極的に作るなら「NISA」がおすすめ
NISAは、金融商品の売買・運用利益を非課税にする制度。株式投資や投資信託など、証券会社で扱える金融商品を節税しつつ運用できます。
なお、NISAの非課税効果には、以下のような規定が設けられています。
- 年間非課税枠は120万円
- 最長非課税期間は5年間
上記の範囲内であれば、売買や分配・配当による利益が全て免除されます。このとき、年間非課税枠を残したまま年を跨いでしまうと、前年度に余っていた非課税枠を持ちこせない点には要注意。
また、非課税期間を超えた金融商品は、「課税口座への移動」または「新たな非課税枠を使って移動」させる必要があります。このように長期運用を前提とした投資には不向きな部分があるため、5年以上に渡って運用する可能性が高いなら、後述する「つみたてNISA」の利用がおすすめです。
長期運用で資産形成を進めるなら「つみたてNISA」が最適
つみたてNISAは、NISAの後発としてスタートした非課税制度。NISAより非課税枠は少なくなっており、代わりに非課税期間が長くなっています。
- 年間非課税枠は40万円
- 最長非課税期間は20年間
これらの規定により、毎年40万円を超えて投資を行わず、売買も長期目線で想定している場合はNISAより好条件。
つみたてNISAを利用できるのは「金融庁が定めた水準以上の投資信託」に限られており、運用する金融商品の選択肢は狭いものの、安全性の高い商品が取り扱われているのは初心者にとってメリットです。
さて、iDeCoとつみたてNISAは、制度自体が「投資信託の運用」を促す設計になっています。しかし、投資信託がどのような金融商品なのか分からないままでは、安心して投資に踏み切れませんよね?
投資信託が大切な資産の預入先として相応しい投資先なのか、順序立てて解説していきます。
資産形成の投資先として推奨されている「投資信託」とは?
投資家が専門家に資産運用を一任し、プロ目線で投資先の選定・売買を行ってもらう金融商品が「投資信託」です。
- 投資家が証券会社から投資信託を購入する
- 投資家たちから集まった資金を使い、専門家が株式や債券を売買
- 専門家が好成績を出せば相場価格は上昇。投資信託の売却により投資家は利益獲得
- 投資信託によっては、運用成績に応じて「分配金」が還元される
これら一連の流れにより、投資家は売却益や分配益といった利益を獲得できます。
投資家は投資信託の購入・売却以外の手間を求められず、時間を取られることなく専門家に投資を任せられることが利点。初心者が自己判断で投資するよりも高いパフォーマンスが見込めるため、iDeCoやつみたてNISAでは投資信託の運用を推奨しています。
なお、NISAは投資信託以外の金融商品を扱えるのですが、国内株式や海外株式などはリスクが高く初心者には不向き。安定して利益をあげるには、高度な分析力と売買手法を覚える必要があるため、NISAを利用する場合であっても投資信託の運用をおすすめします。
まとめ
今回は、メインテーマとして「退職金に課せられる税金」についてご説明しました。
退職所得には所得税と住民税が課せられるものの、その金額は「退職所得の受給に関する申告書」の提出状況により左右されます。くわえて自身で確定申告をしなければならないため、スムーズに受け取るためにも提出は必須です。
一方で、退職金の給付率が低下している現状についても、データを交えつつご紹介しました。長期的に給付率の下落が続いているなか、私たちは「退職金がもらえない・少ない」という可能性も考慮しなければならないのです。
そのため、後半解説した非課税制度などを駆使して、賢く資産形成を進める意識が求められます。投資に馴染みがなくて不安であれば、まずは投資信託から始めてみてください。