不動産投資の表面利回りって何?実質利回りとの比較や注意点を紹介
不動産投資を始めるとき、ついつい販売価格ばかりに注目してしまいますが、運用を想定して利益率を算出した「利回り」も忘れてはいけません。
利回りには表面利回りと実質利回りが存在しており、これらは投資費用に対するリターンの期待値をあらわしています。
今回は、各利回りについて理解を深めたうえで、物件を選ぶときに抑えるべきポイントをご説明します。
目次
表面利回りと実質利回りの違いとは?
「利回り」は投資にもちいられる専門用語であるものの、理解が難しいものではありません。たとえば「年間利回りが1%」であれば、100万円の投資費用に対して「1年で1万円のリターン」があるということです。
不動産投資では、さらに利回りを2つに分類して「表面利回り」と「実質利回り」を使い分けます。不動産投資の利益を予想するときに必要となるため、それぞれの内容を解説していきます。
表面利回り(別称:グロス利回り)
物件を探すときネット上に記載されているもの、不動産会社に提示される資料に記載されているものは、ほとんどが「表面利回り」です。
表面利回りは、つぎのような計算式で求められます。
表面利回りの算出方法 |
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満室時の年間利益 ÷ 物件価格 × 100%=表面利回り(%) |
※横スクロールできます。
需要が高く空室率が少ないといわれる東京都内でも、1年のあいだ必ず満室状態を維持できるとは限りません。くわえて不動産投資に必要な出費は多いため、実際の利回りはこれほど高くないのです。
そのため、表面利回りの通りに利益が発生すると考えることは危険。ネット検索や不動産会社との面談で登場する利回りは、目安程度にとどめておきましょう。
実質利回り(別称:ネット利回り)
さまざまな出費を含め、空室率や出費まで想定した利益率を「実質利回り」と呼びます。利回りを完璧に予想することはできないものの、表面利回りよりも現実とのギャップが小さい数字が算出可能。
実質利回りは、つぎのような計算式で求められます。
実質利回りの算出方法 |
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(空室を想定した年間利益-運用経費)÷(物件価格+購入経費)× 100%=実質利回り(%) |
※横スクロールできます。
表面利回りでは考慮しなかった出費を含めることで、より現実的な手残り額を算出できます。
計算に必要な情報が多く手間だと思われがちですが、「簡易シミュレーション」を利用して計算することも可能。想定空室率や自己資金、借入金額などを入力すれば簡単に実質利回りが分かります。
あわせて毎月の返済額や年間収支も計算してくれるため、ざっくりと運用のイメージをつかめる便利なツールです。
実質利回りの計算にもちいる諸経費とは?
不動産投資は実物資産を運用するため、スタートや維持に経費・税金など数多くの支払いが必要。融資を利用している場合は、借入金の返済も支払わなければなりません。
実質利回りの計算は、これらの費用を正確に入力することで精度が高まります。すべてを入力することは難しいものの、多額の出費は算出結果を大きく左右するので押さえておきたいところです。
運用経費・購入経費に分類される出費は、それぞれつぎのようなものです。
購入経費となる費用
・不動産取得税
・登録免許税
・印紙税
・仲介手数料
・改装費(リフォームを施した場合)
これらの税金や仲介手数料は、物件購入時に必要な出費です。
不動産取得税は購入直後ではなく、およそ半年後に請求が届くため注意。支払い時期が遅いため存在を忘れがちですが、物件価格の3~4%と高額であるため算出結果に大きく影響します。
そして、不動産会社が仲介したときに発生する「仲介手数料」も、業者により割合の違いがあるものの約3~5%発生します。購入経費は2年目以降の利回り計算にも使用するため、間違いのないように注意しましょう。
運用経費となる費用
・固定資産税
・都市計画税
・個人事業税
・所得税
・管理費
・修繕費
・損害保険料
・借入返済額(返済後利回りの算出時に使用)
・その他、事業に関わる交通費・接待交際費など
運用経費は年度により差があるため、算出には購入経費より手間がかかります。しかし「固定資産税」や「都市計画税」など、金額の想定が容易な出費はできる限り取り入れた方が良いでしょう。
また、数十年単位で融資を受けるのであれば、完済までは「実質利回りから借入返済額を引いた手残り」が実質的な利益となります。実質利回りの計算段階ではプラス収支だとしても「返済後利回り」がマイナスであれば、数十年間のあいだ常に損失を計上する状態となるため危険。
借入総額が多いほど、返済後利回りの数値はプランニングの参考になるため、実質利回りとあわせて算出することをおすすめします。
各計算方法による算出利回りの差額
満室を想定した表面利回りと、実際の運用イメージに近い実質利回り。さらに借入返済金を踏まえた計算では、それぞれ算出結果が大きく異なります。
この項では、現実的な運用モデルをもちいて、具体的なイメージの違いを比較していきます。
表面利回り10%超の一棟マンション
国内大手の不動産情報サイトにて、実際に存在する東京都内の一棟マンションを検索。計算にもちいるサンプルとして、以下のような特徴をもつ物件を対象にしました。
計算対象 | 一棟マンション(全12室) |
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物件価格 | 5,000万円 |
表面利回り | 10% |
想定年間利益 | 520万円 |
所在地 | 東京都内 |
※横スクロールできます。
※計算の都合上、小数点を切り捨てた簡易な数値を使用しています。
このような条件をもつ物件を想定し、実質利回りの算出に使用する数値を求めていきます。
なお、自己資金は物件価格の20%にあたる1,000万円、残りの4,000万円を金利3%の借入で補っていると仮定。諸経費を想定年間利益の20%とし、東京都内の需要を考慮しつつ空室率5%の安定的な運用モデルで計算しています。
求める項目 | 計算式と算出結果 |
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年間返済額 | 月間返済額×12ヶ月 |
22万1,840円×12ヶ月=約266万円 | |
年間諸経費 | 想定年間利益×諸経費20%(0.2) |
520万円×0.2=104万円 | |
空室率5%時の損失額 | 想定年間利益×空室率5%(0.05) |
520万円×0.05=26万円 | |
実質年間利益 | 想定年間利益-年間返済額-年間諸経費-空室による年間損失額 |
520万円-266万円-104万円-26万円=124万円 | |
各利回り | |
実質利回り | (想定年間利益-年間諸経費-空室による年間損失額)÷物件価格 |
(520万円-104万円-26万円)÷5,000万円=7.8% | |
返済後利回り | 実質年間利益÷物件価格 |
124万円÷5,000万円=2.48% |
※横スクロールできます。
このように数値を求めることで、表面利回りと実質利回りの差は2%弱となり、年間利益額に130万円の違いがあると確認できました。さらに、表面利回りと返済後利回りには7%超の差があり、年間利益額の違いは396万円です。
これだけでも、利回りの計算方法の違いにより、大きな差が生まれることが分かりました。しかし、上記では東京都内での運用を想定しているため、想定空室率は5%と低く見積もっています。
実際には、地方でこれほどの入居率を維持するのは困難です。需要の少ない地方で不動産投資をおこなう場合、空室率の増加は利回りにどの程度の影響を及ぼすのでしょうか?
空室率以外の条件は変わらないものとして、いくつかのパターンを算出していきます。
求める項目 | 計算式と算出結果 |
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空室率10%時の損失額 | 想定年間利益×空室率10%(0.1) |
520万円×0.1=52万円 | |
空室率20%時の損失額 | 想定年間利益×空室率20%(0.2) |
520万円×0.2=104万円 | |
空室率30%時の損失額 | 想定年間利益×空室率30%(0.3) |
520万円×0.3=156万円 |
※横スクロールできます。
空室率30%を超えると実質利回りは5.2%になり、表面利回りの約半分まで落ち込みました。さらに、返済後利回りはマイナスとなり、融資の完済まで赤字運用が続くと予想できます。
空室率の違いだけでもこれほど算出結果に差があるため、表面利回りは実際の運用結果と一致するものではないと分かります。
どの利回りを重視するべき?
一般的な会話に登場する「利回り」は、表面利回りを指している場合が多いです。しかし、表面利回りが現実的な利益率の計算に不向きなのは、先ほどの比較からも明らか。
楽観的な見積もりは計画を狂わせる原因になりかねないため、算出結果と現実のギャップが小さい「実質利回り」や「返済後利回り」の利用をおすすめします。
もちろん不動産投資の特性上、災害や賃料低下で想定より悪い利回りになることもあるため、どの利回りも絶対的な指標とはいえません。
つぎの項では、利回りの特徴をさらに深くまで解説し、「利回りの落とし穴」とも呼べる注意点をご説明します。
利回りだけを重視した投資の危険性
日本不動産研究所が発表する「不動産投資家調査」は、複数の企業を調査対象として地域別の利回りを算出しています。
資料によれば、東京圏での「ワンルーム賃貸」における利回りは4.5~4.6%、「ファミリー向け賃貸」の利回りは4.5~4.7%です。
一方で、東京以外の都市における数値は、「ワンルーム賃貸」と「ファミリー向け賃貸」のどちらも利回りが5.0~6.0%となっており、東京圏よりも平均値が高いことが分かります。
この結果だけ見れば、東京以外の都市で不動産投資をスタートさせれば、より大きな利益をあげられると考えがちです。しかし実際のところ、需要が高いほど利回りは低くなり、需要が低いほど利回りが高くなる傾向が見られます。
つまり、東京圏は高需要であるために物件価格が下がりづらく、その結果として利回りが低く見積もられているのです。そのため、利益率が優れているとはいえないものの、中長期的に安定した賃料収入が見込めます。
一方で、地方は需要の低下で物件価格が下がりつつあるため、計算式に当てはめたときには高利回りになりがち。しかし、実際には東京圏より入居率が安定しないことから、賃料収入が不安定になりやすいといえます。
入居率が安定しない物件は、中長期的な運用を前提とした不動産投資において避けるべき投資対象です。たとえ計算上では高利回りであったとしても、安易に購入すると失敗をまねく可能性が高いと考えられます。
高利回りな物件の特徴
「設定賃料が高い」または「物件価格が安い」ことで利回りは高くなります。
設定賃料を高く設定するためには「付加価値」が不可欠であるため、大抵の高利回り物件は物件価格の安さによって実現している場合がほとんど。安い物件価格の要因となるポイントを知らないままでは、物件購入に不安が残ります。
そこで、「危険な高利回り物件」を見極めるポイントをピックアップ。悪条件の重なりで高利回り化している3つの例を解説していきます。
エリアの需要が低い
日本国内は地方の過疎が深刻化しており、人口減少の傾向が見られるエリアは物件価格が下がりつつあります。
あくまで表面利回りは「満室時の年間利益」をもとに算出しているため、実質利回りと大きな差が生まれるケースがほとんど。将来性が見込めない場合、運用中にも利回りが低下していく可能性は高く、年々利益が少なくなることも考慮しなければなりません。
需要が低いエリアでは売却時に買い手が付きづらく、毎月ほとんど利益がない物件を長期的に手放せないリスクもあります。
入居者にとって魅力のない物件である
近隣の物件よりも築年数が古い場合、内装や設備が不便な場合は、物件価格が安い傾向にあります。
くわえてリフォーム工事を前提としているような劣化状況であれば、購入費用とは別に修繕費が必要。ますます買い手が付きにくいため、土地の価格以下で売り出されている物件もあります。
これらは物件価格が安く高利回りになりやすいですが、購入したままの状態で入居者を募集しても空室が埋まる可能性は高くありません。
投資家目線では「高利回りの魅力的な物件」であっても、入居者が魅力を感じなければ利益にはつながらないため注意しましょう。
裁判所が市場に出している競売物件
物件所有者に借入金の返済能力がなくなり、融資元の申請によって差し押さえられたものを「競売物件」と呼びます。
競売物件は裁判所による公開のもと、オークション形式によって入札により価格が決まります。基本的に相場よりも低価格で売買されるため、小資金で物件を購入したい投資家が注目することも多々。
しかし、高利回りを期待して入札したにもかかわらず、トラブルに巻き込まれて多額の初期費用を必要とするケースがあります。特に、競売物件がもつ以下のような特徴を知らない場合、思わぬ失敗をまねくため注意しましょう。
「競売物件の注意点」 ・残置物の処分は落札者がおこなう ・落札するまで物件の内見ができない ・立き退きや引き渡しは落札者が対応する ・物件の欠損・不具合は事前に知らされない
このように通常の売買とは異なるルールが設けられており、落札できるまでに確認できる物件情報は「3点セット」と呼ばれる裁判所が用意した資料のみ。そのままでは居住すらできない状態であることも珍しくありません。
残置物や修繕への対応を考慮すれば、利回りが優れていてもハイリスクであることに変わりなく、経験の少ない投資家には不向きな物件です。
優良な高利回り物件とは?
上記のように悪条件が重なった物件でなければ、優良な高利回り物件である可能性が高いです。しかし、こういった希少な物件は、ネット上や不動産会社の紹介で簡単に見つかるものではありません。
優良な高利回り物件はすぐに買い手があらわれ、市場に露出する時間が短いからです。
多くの投資家がエリア密着型の不動産会社と連携を取り、細かく市場をチェックしていることからも、利回り重視の物件探しが難しいことが分かります。
そのため、需要や将来性を考えたうえでエリアを決定し、魅力的な物件を見つけたときに「購入の判断基準」として利回りを利用することをおすすめします。
個人投資家における不動産投資は「中長期的に安定した運用」を目標とするため、めざましい利益率ではなくても、継続して黒字運営を続けられる投資先が好ましいはずです。
まとめ
今回は、表面利回りと実質利回りの特徴について、および物件選びにおける利回りの重要度を解説しました。
不動産投資において利益率は優先して考えるべき要素ですが、利回りだけに固執してしまうことは危険。高利回りの裏には隠れたリスクはないのか、楽観的な見積もりを立てていないかなど、いくつかの視点とあわせることで機能する要素です。
もっとも分かりやすい数字であるものの、実物資産である不動産投資は「物件そのものの魅力」が成功のカギを握っていると忘れてはなりません。