サブプライムローン問題の再来?不正融資がまねく不動産業界への影響
かつて金融市場に衝撃を与えたサブプライムローン問題は、アメリカの不動産バブルを崩壊させた原因として有名です。日本の経済も多大な影響を受けたものの、すでに人々の記憶から忘れ去られつつありました。
しかし近年、国内において無謀な貸付をおこなう不正融資が増えており、不動産業界ではこれをサブプライムローン問題の再来として危険視。「市況に悪影響をもたらすのでは?」といった意見が挙がりはじめました。
そこで今回は、国内の融資事情とサブプライムローン問題を比較、懸念される不動産業界の今後について解説していきます。
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目次
被害者多数の「かぼちゃの馬車問題」とは?
「かぼちゃの馬車」は、スマートデイズ社が提供していた女性専用のシェアハウスです。
安い賃料を前面にアピールし、上京する女性をターゲットにPRされていました。不動産業界のなかでは新しいビジネスモデルとして注目を集め、多数のサラリーマンが投資。
かぼちゃの馬車はサブリース契約による家賃保証があるため、堅実な投資先だと考えた投資家も多かったようです。しかし、実際の入居率は低く赤字運営が続いており、スマートデイズ社は次々と物件を販売することで損失を補填。その場しのぎではあるものの、なんとか家賃保証を維持していました。
しかし、スルガ銀行がかぼちゃの馬車を購入する投資家への新規融資を停止。スマートデイズ社は、物件販売による利益が減少したことで経営破たんしてしまいました。
投資家たちもサブリース契約が成り立たなくなったことで損失を計上、社会問題として取り上げられることとなります。
これらの問題が起こった背景には、ビジネスモデルがもつ収益性の低さと、悪徳業者による不正融資が関係していました。
情報の不正操作による多額の融資
社会問題として取り上げられてから間もなく、「かぼちゃの馬車」の購入にあたり多くの融資を受けられるよう、仲介業者が投資家の資産情報を書き換えたことが発覚しています。スルガ銀行は改ざんされた情報をもとに融資審査を実施し、結果として投資家の返済能力を超える金額が貸し付けられました。
また、かぼちゃの馬車のビジネスモデルは収益性が高いとはいえず、プロジェクトが開始された直後から自転車操業と評されるほどの経営状態。そもそも事業計画そのものが、本来なら融資を取り付けられないほど無謀なものでした。
そのような実態がありながら貸付を実施したとして、投資家たちはスルガ銀行に対する集団訴訟をおこなっています。
投資家に残された負債
多くの投資家がシェアハウスへ投資しましたが、700人を超えるサブリース契約の利用者に投資資金を回収できる見込みはありません。なかには借入金が1億円を超えるケースもあり、ニュースには毎月の返済に悩まされる様子が取り上げられました。
「かぼちゃの馬車問題」に関連する被害総額は1,000~2,000億円といわれることからも、問題が大規模であったことが想像できます。
「かぼちゃの馬車問題」以外に発覚したスルガ銀行の不正融資
2018年10月には、スルガ銀行が「かぼちゃの馬車問題」以外の不正融資にも関与していた事実が発覚しました。
スルガ銀行が発表した「当社に対する行政処分について」によれば、仲介業者が賃料や入居率を操作して物件の評価を改ざん。また、預金残高を偽装していた事実を知りつつ貸付を進めたとして、スルガ銀行はいくつかの不正融資があったことを認めています。
その後は半年間の業務停止命令および業務改善命令のもと、組織体制の改善が求められています。
不動産会社「TATERU」の預金残高改ざん
かぼちゃの馬車に続いて、不正融資が横行する実情を世に認知させた「TATERU」の預金残高改ざん。その実態は悪質極まりなく、株式市場にも一部影響を与えました。
この項では、現在までに判明しているTATERU問題の流れをご説明します。
不動産会社「TATERU」とは?
不動産会社TATERUは、クラウドファンディング事業や民泊事業など、複数の不動産関連ビジネスを展開する企業です。
なかでも、「ITと不動産投資の融合」を掲げ、不動産業者とTATERUの利用ユーザー(不動産の購入希望者)を仲介するクラウドシステムは大きな注目を集めていました。
TATERUの問題が発覚するまでの流れ
アパート投資を希望していたTATERUユーザーの男性が、TATERUを通じて1億円超の不動産を契約。不正融資について見識があった男性は、預金残高が23万円であるにもかかわらず融資が承認されたことに不信感を覚えました。
その後、融資元である西京銀行へ確認したところ、男性がTATERUに提示した預金残高が操作されていたことが判明。TATERUの従業員がデータを改ざんしたことを認め、謝罪として男性に100万円を振り込んでいたようです。
一連の問題が取り上げられるとTATERUの株価は大暴落し、かぼちゃの馬車問題とあわせて業界の不正を問題視する意見が強まりました。
さらに不動産情報サイト「楽待」には、TATERUユーザー数人が証言している「情報偽造」の実態が記事*¹として掲載されており、メディアに報道された情報以外の不正についても疑惑が残されたままです。
*¹出典:(楽待「TATERU、創業初期から不正横行か」)
世界を震撼させた「サブプライムローン問題」とは?
サブプライムローン問題はかつて世界経済へ影響を与え、リーマンショックを引き起こした要因です。
多額の不正融資が横行している日本国内の現状は、当時のアメリカに近い状態だといわれており、不動産価格の上昇を終了させるのではないかと懸念されています。 この項では、サブプライムローン問題の仕組みや影響を解説、一連の流れと原因をご紹介します。
サブプライムローンの仕組み
サブプライムローンは、2001~2007年ごろにアメリカで注目を集めた「低属性向けの融資」です。
融資における属性とは、職業や経済力から想定される「融資希望者の返済能力」をあらわします。つまり、低属性層は返済能力が評価されづらい人たちを指す用語です。
一般的に、低属性だと判断されるのは以下のようなケース。
・収入の低い職種 ・保有資産が少ない ・自営業や非正規雇用 ・返済金を滞納した経歴がある
通常、返済が滞れば融資元の金融機関が破たんするため、属性が優れていなければ多額の借入は受けられません。しかし、サブプライムローンは高金利で貸付をおこなうことで、半ば強引に低属性層への融資を可能にしました。
このとき、顧客の特性上「貸し倒れリスク」が大きいため、「証券化」という手法を利用してリスク軽減をおこなっています。サブプライムローンにおける証券化は、2つの手順で進められました。
まず、もともと金融機関がもっていた「返済金を受け取る権利」をリーマン・ブラザーズ社へ売却。この権利と他の金融商品を組み合わせることで、複雑な構成の証券を作成しました。
証券化により発行された証券は「金融商品としての品質」をあらわすランクをつけたうえで、世界中の投資家に販売されます。しかし、最高ランクであるAAAが与えられた証券は瞬く間に売れますが、BBBのような低ランクの証券は売れません。
売れ残りを消化するために、ランクがBBBの証券同士を組み合わせることで高ランクへと改編。こうして生まれた大量の高ランク証券は、当然ながら内容と評価が異なる低品質な金融商品でした。
結果として、サブプライムローンは歪んだ証券化ビジネスの助燃剤となり、以下の順番で歴史的な問題へと発展していきます。
1.低金利政策による不動産価格の急騰
前提として、サブプライムローンの普及以前から「不動産バブル」と呼ばれる価格急騰が続いていました。不動産バブルはアメリカの低金利政策により、融資を受ける人が増えたために起きたものです。
多くの人が保有資産を拡大するために借入をおこない、金融機関は貸付で金利を得られることから需要と供給が一致。不動産価格の上昇はとどまることなく、「金が金を生む」といった状態が続いていました。
2.サブプライムローンが普及
返済能力の優れた「高属性の人たち」が、それ以上の借入が必要ない状態になったため、少しずつ借り手は見つかりづらくなりました。
そこで、金融機関がつぎの貸付対象として目をつけたのが「低属性の人たち」であり、サブプライムローンの始まりです。返済能力にかかわらず融資をおこなうサブプライムローンは急速に普及し、結果として不動産市場はさらに活性化。
市場の盛り上がりに連動して証券化の規模も大きくなり、サブプライムローンの影響範囲は世界中に広がりました。
3.不動産バブルが崩壊
価格上昇が永続的に続く金融商品はなく、ましてや不動産は需要に限りがあります。やがて不動産市場は下落が始まり、ローンの返済が滞るケースがあらわれました。
多くの人が、ローン返済が困難になれば不動産を売却しようと考えていましたが、瞬く間に売却価格は返済総額を下回り、金融機関は貸付金の回収ができずに経営が悪化。
不動産バブルが崩壊すれば、証券化された「サブプライムローンの関連証券」は大きな損失を生みます。そのため、投資家たちは資産を守るべく、保有している証券を一斉に売り出しました。
大規模な売り注文により、サブプライムローン問題の中核にいたリーマン・ブラザーズ社は約60兆円を超える負債を計上。アメリカ政府も救済措置を実施することなく、間もなくリーマン・ブラザーズ社は経営破たんします。
一連の問題による混乱は世界的な金融不安をまねき、各地の証券取引所で株式が売却されました。これが「リーマンショック」の実態です。
サブプライムローン問題による日本への影響
サブプライムローン問題により、米ドルの売られ過ぎにより相対的に円高が進行。円高により日本の輸出事業は低迷し、為替相場に連動して日経平均株価も下落していきました。
その後、日本はリーマンショック時の暴落をきっかけに、長期的な経済低迷を続けます。リーマンショック後には東日本大震災や原発事故が重なり、最終的に「2013年の金融緩和政策」まで円高の傾向は止まりませんでした。
他国での問題でありながら大きな影響があったことを考えれば、国内で同様の事態をまねいたときに生まれる損失は計り知れません。
国内の不正融資が不動産業界に与える影響
一連の騒動を深刻に捉えた各金融機関は、不動産投資の融資基準を厳しく設定し始めました。融資が引き締められることは市場の流動性低下につながり、長く続いた不動産価格の上昇が終わりをむかえる可能性も懸念されています。
現段階で専門家の意見は賛否両論で、今後の不動産業界がたどる道はまだ明確ではありません。しかし、これから不動産投資を始める投資家は、従来よりもトラブルに対して敏感であることが求められます。
今回紹介した事例は、どれも金融機関や仲介業者に責任があるものばかり。
しかし、投資家たちが融資に対する理解に乏しかったことも事実です。あらゆる投資の原則として、提示された「リターンが少なく見える商品」には、どこかに必ずリスクが潜んでいると忘れてはいけません。
たとえば、TATERUの情報改ざんは以下のように考えることが可能です。
トラブル防止のために投資家が注意すべきこと
TATERUの事例と同様に「23万円の自己資金」で融資を申請し、不動産投資をスタートすることを想定します。このとき、無事に借入がおこなわれ不動産購入を進められたとしても、およそ半年後に「不動産取得税」として購入価格の3~4%の納税が必要です。
TATERUの一件では物件の購入価格が1億円超えており、最低でも300万円の支払い義務が生じます。当然ながら、半年間で不足分の277万円を用意するのは簡単ではありません。
このとき、投資家自身に最低限の基礎知識があれば、半年後に破たんをむかえる投資であることが理解できたはずです。投資における損失で悩むのは投資家自身であり、仲介業者や不動産の売り手が救済してくれることはありません。
投資の世界に足を踏み入れるときは、投資対象の選別やプランニングの見通し、そして自己資金に対して許容できるリスクの範囲を知ることが重要です。
まとめ
今回は国内の不正融資とサブプライムローン問題、それぞれの経緯と問題点をご説明しました。
国内で起きた一連の問題は落ち着きつつあり、各金融機関では融資の引き締めがおこなわれています。しかし、不正融資が完全に解消されているとは断言できず、いまだに無謀な貸付が横行している可能性は捨てきれません。
当然ながら悪徳業者に罪があるものの、投資家は被害を阻止できるよう融資を慎重に進め、怪しさを感じた時点で疑いをもつ姿勢が求められます。
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