かぼちゃの馬車事件から学ぶ「投資は自己責任」の原則
By Oh!Ya編集部
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2018年に入り、世間を賑わせたかぼちゃの馬車事件について覚えていらっしゃるでしょうか。
かぼちゃの馬車事件には、不動産投資において問題とされることの多いサブリース契約や、スルガ銀行による不正融資など、今後失敗しないための題材となるポイントがあります。
本記事では、かぼちゃの馬車事件を通して、「投資は自己責任」の原則について考えていきたいと思います。
目次
かぼちゃの馬車事件とは
2018年、大きく取り上げられることになった「かぼちゃの馬車事件」はどのような事件だったのでしょうか?
ここでは、かぼちゃの馬車事件の概要についてお伝えします。
かぼちゃの馬車事件の概要
かぼちゃの馬車事件は、シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが、「30年間賃料収入を保証するサブリース契約」をオーナーと締結したにも関わらず、約束した賃料を払えなくなったために起こった事件です。
同時に、静岡の地方銀行である「スルガ銀行」が高利でローンを貸し出すとともに、不正融資を行っていた疑いのあったこともクローズアップされました。
この事件のポイントは、主に以下の3つで
- 30年間賃料を保証するサブリース契約であること
- シェアハウス事業であること
- スルガ銀行に不正融資の疑いがあること
これら、3点については後程詳しく解説していきますが、以下でかぼちゃの馬車事件の全体像についてもう少し詳しく見ていきたいと思います。
かぼちゃの馬車事件の経緯
かぼちゃの馬車の経緯は以下の通りです。
- 2014年5月現在の株式会社スマートデイズが「かぼちゃの馬車」を発表
- 2017年10月頃かぼちゃの馬車事業のメーンバンクであるスルガ銀行の融資がストップする
- 2017年10月かぼちゃの馬車とサブリース契約を結んでいたオーナーに賃料変更の通知書が届く
- 2018年1月スマートデイズの社長交代(大地則幸氏から菅澤聡氏へ)
- 2018年1月かぼちゃの馬車とサブリース契約を結んでいたオーナーへの賃料支払いが停止
- 2018年4月スマートデイズの社長交代(菅澤聡氏から赤間健太氏へ)
- 2018年4月スマートデイズが民事再生法申請(後に棄却)
かぼちゃの馬車は、「利回り8%程度」で「30年間家賃保証」のサブリース契約をしていました。
シェアハウス運営にはさまざまな運営費用がかかるのに加えて、スルガ銀行では金利3.5%~4.5%程度でローンを貸し付けており、実際には利回り8%程度ではオーナーとしては利益が少ないのですが、それでも「30年間家賃保証」には魅力があります。
しかし、スマートデイズは、オーナーに支払う利回り8%程度の家賃を、シェアハウスの入居者からの家賃だけでなく、オーナーからの建設費用や、入居者への就職斡旋費用などから充てていました。
そのため、スルガ銀行からの融資がストップしたことで新しくシェアハウスを建てることが難しくなり、全体のビジネスモデルが崩れたのです。
サブリースの仕組みと問題点
カボチャの馬車事件では、サブリース契約が一つのポイントとなっています。
そもそも、サブリース契約とはどのようなものなのでしょうか?
サブリースの仕組み
サブリースは、アパートやシェアハウスなどを入居者ではなくサブリース会社が借り上げ、サブリース会社が入居者に転貸し、オーナーは入居者からではなくサブリース会社から家賃を受け取ります。
オーナーは原則として、サブリース会社から空室の程度に関わらず決められた家賃を毎月受け取ることができ、これを「家賃保証」や「空室保証」と呼ぶこともあります。
サブリース会社は入居者から受け取る家賃と、オーナーに支払う賃料との差額が利益となるため、満室経営できていれば利益は大きくなりますが、一方で空室が多いと損失となることもあります。
入居者の募集から契約、管理、退去手続きなど賃貸物件の運営に関わる一切をサブリース会社が行うことになるため、オーナーは何もすることなく、毎月安定した収入を得ることができます。
一般的に、満室の時の家賃収入に対してサブリース契約で受け取れる賃料は8割程度になることが多く、2割程損してしまいますが、空室リスクなどを負わなくてすむと考えると魅力を感じるオーナーは少なくないでしょう。
サブリースの問題点
一方で、サブリース契約には以下のような問題点もあります。
- 賃料が変わる可能性がある
- 汚れた状態で返ってくる可能性がある
- 突然契約が打ち切られる可能性がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
賃料が変わる可能性がある
まず、サブリース契約では「〇年間家賃保証」などとしているものでも、経済状況の変化などにより賃料が変わることがあります。
これは、サブリース契約はサブリース会社とオーナーとの「普通賃貸借契約」であり、借主であるサブリース会社からの「賃料減額請求」として、過去の裁判でも認められています。
なお、「普通賃貸借契約」は「事業者=貸主」と「入居者=借主」の関係性を元に考えられており、借主の権利が強くなっています。
そのため「普通賃貸借契約」では、「借主に不利な条項は無効」とされており、「賃料を〇年間減額できないものとする」といった条項は例え記載されていたとしても無効になります。
つまり、サブリース契約における「〇年間家賃保証」という条項は無効ということになります。
突然契約が打ち切られる可能性がある
上記でご説明したように、サブリース契約は借地借家法における普通賃貸借契約であり、サブリース会社は権利を守られる側の借主という立場です。
借地借家法では普通賃貸借契約について、借主から貸主への賃料減額請求権を認めており、請求が認められない場合には契約期間中でも契約の解除が認められています。
原状回復や修繕に関する問題
サブリース契約の内容によっては、サブリースで貸している物件について、退去者が出るごとに発生する原状回復費や修繕費用についてはオーナー負担となっていることがあります。
この場合、入居者が変わるたびにクリーニング費用や修繕費用を負担しなければなりません。
また、契約の内容によってはそれら修繕費用を指定の会社で行うようにしていることがあります。
これは、サブリース会社がハウスメーカーの子会社であるような場合、グループ会社内で修繕工事をさせようというもので、本当であれば相見積もりをして少しでも安くしようと努力すべきところを、身内の会社1社に独占させることで、一般的な修繕費用より割高になってしまいます。
さらに、サブリース契約は10年~30年にわたって建物を賃貸することになりますが、契約の更新がなければ、期間終了後は自分で管理することになります。
10年~30年管理を任せている間に、原状回復や修繕をろくに行っておらず、ぼろぼろな状態で返ってくる可能性もあります。
「普通賃貸借契約」の借主には「原状回復義務」がありますが、経年劣化による汚れは貸主の負担となります。
カボチャの馬車事件におけるサブリース契約
スマートデイズの「かぼちゃの馬車」は、オーナーに対して「30年間完全定額賃料」を約束していました。
しかし、すでにお伝えしたように、サブリース契約はオーナーとサブリース会社との普通賃貸借契約で、「借主=サブリース会社に不利な条項は無効」です。
「30年間完全定額賃料」は言い換えれば「30年間継続して賃料を減額することなく支払う」こと、ですので「30年間継続すること」と「賃料の減額を行わないこと」は無効ということになります。
サブリース契約における賃料減額請求は過去の裁判でも認められており、「30年間完全定額賃料」は例え契約書にその旨が記載されていたとして無効であり、幻想だったということが分かります。
流行りつつあったシェアハウス
スマートデイズの「かぼちゃの馬車」は女性専用のシェアハウス事業で、特に都心を中心にこうしたシェアハウスは人気を得つつありました。
安い賃料と高仕様設備が売り
シェアハウスは、自分の部屋以外に数人の入居者と共に共用スペースのある部屋です。
キッチンや食堂、お風呂など共用スペースがある分、それらの設備が高仕様であったり、周辺のアパート・マンションと比べて低い賃料だったりするのが一般的です。
入居者に対する人材斡旋業
カボチャの馬車が想定する入居者は、地方から上京してきた女性で、入居した女性に対しては人材斡旋を行う人材会社を紹介することで、入居者の仕事が決まれば紹介料がオーナーにも入る仕組みでした。
また、この人材斡旋料はスマートデイズにも支払われ、毎月の賃料の原資ともなっています。
サブリース契約解除後の苦戦
カボチャの馬車が建てたシェアハウスが充分な競争力のある建物であれば、例えサブリース契約が解除されたとしても自分で運営して黒字にすることもできるはずです。
しかし、カボチャの馬車は女子専用のシェアハウスで1部屋あたり7㎡程度しかなく、また浴室が共用であることなど、そもそもの需要が少なく、サブリース契約解除後、満足に運営することは難しい状況のようです。
そもそも、スマートデイズが運営していた頃から入居率は4割程度だったとされており、いずれにせよどこかの段階で事業が破綻していたことが考えられます。
スルガ銀行の融資実態
カボチャの馬車事件では、オーナーが捻出する建設費用のための融資にスルガ銀行が携わっていますが、その融資内容についても大きな問題があったとされています。
審査書類の改ざん
スルガ銀行については、さまざまな不正が指摘されていますが、その内の一つが融資のために必要な書類の改ざんです。
例えば、一般的に不動産投資で物件を購入するには1割程度の頭金や、登記費用や仲介手数料などの経費を自己資金で用意する必要があるため、まずはこれらの資金を用意しなければなりません。
しかし、スルガ銀行では資金のない人でも「かぼちゃの馬車」を購入できるよう、「頭金不要」としていたとされます。
どのようにして「頭金不要」にしたのかというと、自己資金の確認に用いられる顧客の預金通帳を十分な資金があると見えるように改ざんしたのです。
例えば、1億円の物件を購入するのであれば、その内1割程度、1,000万円程度を自己資金として保有している旨の通帳を作成します。
しかし、上記例では9,000万円程度の融資しか受けられないことになります。
実際の手筈は明らかにされていませんが、1億円の融資を受けるであれば、1億1,000万円程度の物件の9割程度とする必要があり、こうするためには売買契約書や重要事項説明書、契約時の手付金の領収書なども改ざんしなければならないでしょう。
高金利アパートローンで不動投資家におなじみ
スルガ銀行は不動産投資家の間では高金利でおなじみの銀行で、一般的な銀行であれば2%代で融資を受けられる物件でも、審査条件を緩やかにする代わりに3.5%~4.5%程度で貸し出していました。
借りる側としても金利が低い方がよいことが分かっていても、一般的な銀行で審査の承認が受けられない方が、スルガ銀行であれば審査の承認を受けられる、という形で利用されるケースが多いです。
高金利ローンには手を出さない
そもそも、現在の相場では金利3.5%~4.5%といった高金利のローンでは、ほとんど利益を得られないケースが大半です。
例えば、同じ物件を優良な投資家が金利1%代で借りたら大きなキャッシュフローを生み出すことができるため、そのような物件がいつまでも市場に残っているとは考えづらいからです。
投資は自己責任の原則
かぼちゃの馬車事件の被害者の方については、特殊な事情があるとはいえ、サブリースの仕組みやスルガ銀行による高金利の貸出など冷静に考えれば投資に踏み切るべきでない条件が揃っているように見えます。
「30年間完全定額賃料」と謡っているのにも関わらず、裁判で「賃料減額請求」が認められているなど、不動産投資に関する知識や経験の浅い方にとっては混乱してしまうかとも思いますが、どのような判断をしたとしても最終的には「投資は自己責任」です。
投資に踏み切る前に自分でしっかり勉強するなり、信頼できる相談相手を見つけておくなり、しっかり対策した上で投資に取り組むようにしましょう。
まとめ
かぼちゃの馬車事件について、その概要や3つのポイントについてお伝えしました。
かぼちゃの馬車事件は、後になって冷静に考えると投資するべきでない点がいくつも出てきますが、実際に投資に取り組んだ方の中にはこれまでいくつもの不動産を経営されてきた方もいらっしゃいます。
本記事で解説したサブリース契約やスルガ銀行の金利に関する問題など、必要な知識や経験を蓄えながらも、実際に投資に取り組む際には慎重に進めることが大切です。